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第31話
勝ち誇ったようにスノードームを掲げると、返す手で望月の頭を撫でた。
「うん、上手にセットできてるじゃん、合格。眼鏡もソッコー作りにいって、三十男のくせに案外、いじらしいよね」
「年上に向かっていじらしいとは、失敬な」
腕を引っぱられてよろけると同時に抱き寄せられて、いきおい山岸の膝の上に転げ落ちた。あわてて腰をあげればウエストに腕が回され、尻餅をつく形になったところに、うなじにかじりつかれた。
「おっ、お行儀よくしないと叩き出す!」
「冷たくすると、いじけるよ?」
返す返すも口惜しい。山岸を部屋に入れたのは、腹ペコのライオンの足下に横たわるに等しい愚行だったのだ。
「参考までにさあ、俺とエッチしたあと何回くらいマスかいた?」
ぎくりとしたが、からくもポーカーフェイスを保った。望月は殊更ゆっくりと首をねじ曲げると、冷ややかな一瞥を山岸にくれた。
「そっか、言いだしっぺが先に告白しなきゃフェアじゃないか。初貫通でヒィヒィ言ってるとことか、そのわりにはガマン汁がじゃじゃ洩れだったのをオカズに三回ヌカせていただきました。で、望月さんは百回くらい?」
四回、と馬鹿正直に答えそうになって口を真一文字に結ぶ。望月は鳩尾めがけて肘鉄をおみまいすると、山岸が躰をふたつに折って呻いている隙に流し台まで逃げた。
「意外に武闘派だったりするのも手ごたえがあってツボだけどね。そうだ、一緒に観ようと思って持ってきたんだ」
そう言って、山岸はボディバッグからDVDを引っぱり出した。
それは、ずいぶん昔の映画でタイトルは〝マイ・フェア・レディ〟。言語学の教授が、無教養でガサツな花売り娘にレディ教育をほどこしているうちに、いつしかふたりは恋に落ちる──。ざっと、こういうストーリーだ。
「デッキは……壊れている。残念だな」
もちろん、嘘っぱちだ。今から映画鑑賞ということになれば観終わるころには真夜中で、終電に乗り遅れたから泊めて、といった展開になりかねない。
すると必然的にエッチになだれ込まれる恐れがあり、あな恐ろしや。
「壊れてる……か。俺が帰ったとたん直ったりしてね。じゃあ、何して遊ぼっかな」
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