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第33話

「フェ、フェ、フェラなどできるか!」 「大丈夫。出がけに念入りに洗ってきたからキレイだよ」 「論点をすり替えるな。男根……いや、それは女性の躰にはついていない!」 「チンコと女のクリは基本的に構造は同じ。どっちも興奮すると膨らむでしょうが」    発泡酒をひと口飲むと、山岸は自身を掌に載せて、思わせぶりにひと揺すりしてみせた。  もぎ離しても、もぎ離しても、磁力が働いているように視線が吸い寄せられる。望月は眼鏡をむしり取った。視界が覿面にぼやけて、モザイクがかかって見えるに狼藉の限りを尽くされたのは十二日前。  あれは断じて事故だが、同性と性交におよんでしまった一件は黒歴史に相違ない。ノーマル、かつ結婚願望がある男を辱めたに飽き足らず、口でどうこうしろなど盗人猛々しいにもほどがある。。 「食わず嫌いは人生の半分を損してる。たとえば婚活パーティーで意気投合した女子の趣味がパラグライダーだとするよね? そういうアクティブなタイプとつき合うにはチャレンジ精神が旺盛でなくっちゃ」  詭弁を弄するとは、まさしくこのことだ。望月は室内に背を向けると、ムキになって眼鏡のレンズを磨いた。言いくるめられるな、と眉を寄せる反面、暴論にも一理あるような、ないような……。   思い起こせば初恋の相手にはじまり、異性という異性から下される評価は〝面白みのない男〟。  人生のレールからはみ出さないことを金科玉条としてきたが、突拍子もないことに挑戦してみればひと皮剝けて、ひいては結婚という目標に向かって一歩前進といくのだろうか。とはいうもののフェラチオに挑むのは、ヒマラヤに登るのに匹敵するほどハードルが高いのだが。 「やるの、やらないの? ヘタレならヘタレらしく、できませんって土下座したら?」  嘲笑を浴びて闘志が湧いた。六つも年下の青年にコケにされっぱなしでは、男がすたる。 「やると言ったら男に二言はない。けれど、なにぶん初めてゆえに指導のほうを頼む」    おいでおいでをされると、早まった、と地団太を踏みたくなる。ともあれ眼鏡をかけなおすと腕まくりをした。すべらかな肌があらわになり、それと連動するように、ひくりと雄が頭をもたげた。

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