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第35話

 痛くしたのだろうか。上目をつかえば、微妙に上気した顔がふてぶてしくゆがんだ。 「下手くそなのは織り込みずみだから。嚙まないことを心がけて頭を上下させながら、ひたすらしゃぶる」  横柄に、それでいてうわずった声で指示を与えると、腰を前方に突き出しぎみに背もたれに上体をあずけた。  放任主義なのか、と望月は顔をしかめた。新入社員には、ひとりひとりに教育係がつく。その伝でいけば、指導のほうよろしく、と前もって言ってあるのだから懇切丁寧に教えてくれてもバチはあたらない。  俗に褒めて伸ばすという。がんばって銜えて偉い、くらいのことを言ってくれないと淋しいじゃないか。  淋しい? この場面にもっともそぐわない感情に戸惑った。わざとペニスを嚙んで山岸にお灸を据えてあげるならともかく、淋しいもへったくれもあるものか。  ぶらぶらして邪魔っけなネクタイの端を胸ポケットに突っ込んだ。そうしたほうが舌を動かしやすいと悟って膝立ちになると、思い切って根元まで頬張り、ぎこちないなりに頭を上げ下げしはじめた。  ペニスがいちだんと反り返って苦い雫がしみ出してくれば、吐き気が強まる。独特のえぐみに自然と舌が丸まり、だがタイムを要求するのは負けを認めるようでくやしい。  会社では常に効率のよい仕事の進め方を模索していて、いわば、これはその応用編だ。  吸ってみた。やんわりとかじってみた。先端を食んで孔を舌でつついた。  コツらしきものを摑むにつれて次第に大胆になり、殊に顕著な反応を示したポイントを重点的に刺激する。  ぴくり、と山岸が身を震わせた。そうか、裏筋とやらを舌でこそげられるのが好きなのか。 「ふっ、んん、あ、ぐ……」    足は痺れて顎もだるい。汗がにじんで眼鏡のレンズが曇る。サービスに努めているのに、射精するには至らない。縦に横に唇をスライドさせるたびに淫靡な水音がくぐもり、それが恥ずかしくてたまらないのに、なぜだか悩ましい気分になってきて困るのだが。  いいかげんイッてくれ、と恨みがましい目を山岸に向ける。  すると彼はうっすらと口を開いて、この状況に酔いしれているようだ。

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