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第5章 遠隔操作注意報!?

    第5章 遠隔操作注意報!?  LINE友だちの第一号が山岸だとは、交際範囲の狭さを物語って切ないものがある。  望月は総務部の自席でパソコンを操作しながら、そう独りごちてため息をついた。  先夜に家に押しかけてきて以来、山岸は無駄にマメな一面を発揮して、ちょくちょくメッセージをよこすようになった。既読スルーを決め込むと、〝シカトすると拗ねちゃうよ?〟と、こちらの罪悪感を巧みに刺激してくるあたり、望月より一枚も二枚も上手だ。   ともあれLINEというツールを通じて、山岸という骨組みに肉づけがほどこされていくようだ。たとえば毎朝早出してカットの練習をするのを自分に課していて、北陸出身で、趣味はスノードームを作ること……等々。  ちなみにスノードームについては、全作品の画像がインスタグラムにアップされていて、望月はこっそりフォロワーになった。  山岸に情が移ったのか、と望月は時として自嘲的に嗤う。いわば被害者と加害者が狎れ合うなどナンセンスの極みだ。 「係長、確認をおねがいします……あのぅ、今日もお昼は社食ですか」  うなずき、女子社員から受け取った書類に目を通す。〝ダサ男〟を返上してからこっち、社員食堂で相席を求められることも、忘年会への誘いも格段に増えた。  女子社員の間の格づけランキングで順位を上げたのかもしれないが、モテ期が到来したのだと勘違いすれば、しっぺ返しを食らうのが世の習い。ゆえに、相も変わらず退社後は家にまっすぐ帰る。  第一、年の瀬は仕事が山積みだ。年賀状の印刷も、営業マンが得意先に配って回るカレンダーも出来上がってきたとあって、雑用に追われっぱなしなのだ。  これもそのひとつで、赤ペンを片手に原稿の束をめくる。  それは社内報に載せるもので、新年号の巻頭を飾るのは慣例通り社長による年頭の挨拶だ。以下、今年の抱負というテーマで重役陣に原稿を依頼してあったのだが、専務のそれは規定の枚数を二枚もオーバーしている。  腕組みをして原稿を睨む。  ひと言でいえば、うるさ型。それが専務の人物評で、八百字ほど削ってほしいと頼むにしても正攻法でいくべきか、からめ手でいくべきか。

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