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第40話

〝いま起きて、朝勃ちしちゃって。可哀想だと思ってテレホンセックスの相手してよ〟。    この場合は既読スルーといくのが賢い選択なのだが、指は勝手にレスポンスを綴る。 〝社内でそんな破廉恥な真似はできかねる〟。 〝望月さんはネコの素質に恵まれてるんだから能力を伸ばさなきゃ〟。 〝四つ足で歩く練習をしろと?〟。  それに対しては梨のつぶてだ。あの手この手でおねだりされてもテレホンセックスに応じる気はさらさらないが、尻切れトンボに終わったのが淋しいような気分で先ほどまでの作業に戻る。そこに電話がかかってきた。 「仕事をサボりっこない人が即レスしてくれたってことは人目につかない場所……ちょうどトイレに来たとかだったりするの」   せっかく正常に戻りかけていた脈搏が、また速まった。 「このあいだ俺のを尺りながら勃たせてたね。しごいてって言えば、しごいてあげたのに」  スマホの電源をうっかり切り忘れた迂闊さが心底、悔やまれる。 「俺が帰ったあと、どうした」 「べつに風呂に入ってふつうに寝たが?」 「へぇえ、とぼけるんだ。絶対マスかいたよね、それも後ろに指を入れて混ぜ混ぜ型の」 「たわけたことを言うな! 肛……」 〝もん〟の部分は咳払いでごまかした。 「混ぜ混ぜするような特殊な性癖はない」 「前立腺を適度に刺激するのは健康にいいことは、医学的に立証されてるってさ」    デマカセだけど、と付け加えられたものの、それは望月が聞き漏らすことを想定しての吐息に溶けた。 「俺、ドMなのかな。冷たくされたらよけいビンビンになっちゃって、聞こえる? 手コキしてる音」  寝起きとあって声はかすれ気味で、そのぶん官能に訴えかけてくるそれには媚薬の成分がふくまれているのかもしれない。そのうえ〝手コキ中〟との弁を裏づけて、いかがわしい雰囲気が漂う衣ずれが鼓膜を震わせる。  掌が汗ばむ。望月はスマホを右手から左手に持ち替えた。  山岸は着瘦せするほうで裸体は案外、たくましかった。あの躰をベッドにゆったりと横たえて、気まぐれにペニスをいじるさまが目に浮かぶと全身が火照りだす。

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