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第41話

「舐めたいな、誠二のちっちゃな乳首」  チュッ、と何かをついばむ音を交えて囁かれたせつな、喉が物欲しげに鳴った。惑わされるな、と口を真一文字に結んだ時点ですでに術中にはまっている。  舐めさせて、とたたみかけられてリモートスイッチを押されたロボットのように書架の陰に移動した。そこは入り口から見て死角にあたり、悪戯するにはうってつけの場所だ。  スピーカー機能に切り替えたスマホを胸ポケットにすべり込ませ、その隣のボタンをためらいがちに外す。右手をワイシャツの内側に忍び込ませた拍子に、首から提げている社員証が裏返しになった。  就業中にこんな所業に及ぶとは常軌を逸している、と思うのだが、 「右の乳首から可愛がってあげようか」  猫なで声で焚きつけられると、指が勝手にアンダーシャツの上を這い進んでしまう。なぜなら野草がこすれ合うような音が胸ポケットから響き、それはペニスをあやす手を速めるのにともなって発せられたものとおぼしい。  淫靡な気配と後ろめたさの相乗効果で、理性が蝕まれるようだ。おずおずとだが、掘り起こすように乳首をつまむと電流めいたものが背筋を走り抜け、望月は身をよじった。 「ん……」 「会社で乳首をしこらせて悪い係長だなあ。部下に示しがつかないよ?」  けしかけておいて水を差すとは、やり口があくどい。望月は布地が裂ける勢いで右手を抜き取り、ところが、左の乳首までかまってほしげに疼きだす。 「お堅いくせにスリリングな状況に萌えるなんて、マジに、むっつりスケベだよね」  からかわれると、かえって欲望の虜になる。誘惑に負けて、アンダーシャツをたくしあげてしまう。山岸の指づかいを踏襲する形に、二本の指で左の乳首を挟んですり合わせる。  調子に乗りついでに、つついたり揉みつぶせば当然の帰結だ。ペニスが萌して、スラックスの前が明らかに丸みを帯びてきた。  痴態を演じることになるなら、あらかじめトイレの個室に場所を移すべきだった。妙に冷静にそう考える。  トイレットペーパーが完備されているあそこなら、射精するに至った場合でも速やかに証拠湮滅(いんめつ)を図るのは可能だ。しかし仮にも総務部の係長たるもの、会社の備品を悪用するのは職業論理に反する。

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