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第42話
「ぁ、山岸くん……」
「ビデオ通話でエロい表情を見ながらオナるより、声だけってのがクる……な」
乳首がみずやかに色づくのと連動して、胸ポケットでくぐもる息づかいが切迫した響きをはらみはじめる。
山岸は限界が近いのかもしれない。そう思うと主導権を取り戻したようで、小気味がよい。だが三十男が自分の乳首を爪繰る模様をライブで聞かせても、達する前に萎えるのがオチなのでは?
為せば成る、という。望月は指を舐めて唾液をまぶすと、湿った音をわざと立てながら乳首をこね回した。山岸がかぶりつきで見ている場面を想像すれば、こねくり返す動きに加速がつく。
ただし、それは諸刃の刃で、ペニスが本格的にみなぎる。以前は乳首など無用の突起物にすぎなかったものを、山岸が魅惑のポイントに作り替えたせいだ。
息が乱れ、ずるずるとしゃがみ込んだ。
「く、んんぅ……」
「ミイラ取りがミイラってやつかよ。ヤバい……保 たない」
くやしさがにじむ独り言に雑音が混じる。山岸がラストスパートをかけたらしき様子が呼び水となって、スパイシーな彼の味が味蕾に甦り、飲ませてほしいとせがむふうに、望月は無意識のうちに舌を突き出していた。
それから程なくして、山岸は放ったようだ。ティッシュペーパーを何枚かまとめて引き抜いたらしくガサゴソという音が、ペニスをぬぐうさまを生々しく伝えてくる。
「すっきりした。望月さんも新たな自分を発見して満更じゃないでしょ。そうだ、俺と望月さんの仲なんだし特別に透真って呼び捨てにしてくれてもいいよ。っていうか、そうしてほしいな。じゃあね」
一方的に通話が切られた。スマホが胸ポケットからはみ出すと自己嫌悪の海で溺れるようで、やっとのことで総務部のフロアに戻る。
生煮えの状態におかれっぱなしで欲望が身内にくすぶり、フェロモンだだ漏れのくせに目つきが悪い望月に話しかけるのは、部長といえども躊躇するありさまだった。
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