45 / 87

第45話

 と、腕を引っぱられて転げ落ちるように沓脱ぎに下りた。すかさず抱き寄せられてガムシャラにもがき、けれど若々しい肢体が放つ香気に包まれると離れがたい気持ちが湧き起こる。  どうしてもそうしたい衝動に駆られてダウンジャケットの肩口にこころもち顎を寄せると、狂おしいものをはらんだ吐息がツムジに熱い。 「髪の毛は会いにくる口実。友だちに遊びにいこうって誘われたけど望月さんを優先して断った。この意味、わかる?」 「職業意識のなせる業……痛い、いひゃぁい!」  左右の頬を両方向に力一杯ひっぱられた。 「ニブちんなのもそこまでいくと国宝級だよ。そんな調子じゃ奇蹟が起きて結婚できるころには、よぼよぼのおじいちゃんだね」  カチンときて、意地の悪い笑みがたたえられた顔を睨み返した。それから望月は眼鏡を押しあげると、厳然とドアを指し示した。 「わかった、帰りますよぉだ。そうだ、週末は夜更かしできるよね。金曜の夜、なるたけ早く仕事を終わらせるから、ごはんしよう」  強引に握り取られた右手の小指に小指がからんだ。ゲンマン、と望月がつられて唱えると額に唇が触れた。  スキンシップの多さにジェネレーションギャップを感じる。若者の間ではハグは挨拶代わりだとしても、山岸に触れられるたびにどぎまぎしてしまうから、過度の接触は慎んでほしいのだ。そう思う一方で、子どもだましのキスでは物足りない。  ダウンジャケットの胸倉を摑んだ。山岸がうろたえたふうに後ずさるのに先んじて、唇をぶつける要領でくちづけていく。

ともだちにシェアしよう!