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第48話

 今度はグルメ系の口コミサイトを検索した。ガッツリ焼き肉もいいが季節柄、鍋物も捨てがたい。婚活パーティーで知り合った女性と初デートの折に、迷わず牛丼屋に入って顰蹙を買った、という失敗を踏まえてムードのある店を下調べしておくべきか。  男同士でムードもへちまもないか。自嘲気味に嗤ってアプリを閉じた。それにしても、と眼鏡を押しあげる。山岸は何が楽しくて、なんの取り得もない自分をかまいたがるのだろう。  仮にセフレ的な要素を求めているなら、ナイスバディであるとかテクニシャンであるとか、一芸に秀でた相手を選んだほうが愉しめると思うのだが。  特定の誰かが頭の中に住み着いて、その人物の本心を知りたいと願うのは生まれて初めての経験で、もやもやしたものの核をなすものがなんなのか、それすら謎だ。   と、デッキの近くに立っている男性と目が合った。それは田所だ。  望月が会釈をすると、田所は着ぶくれた乗客の間を器用に縫って隣にやってきた。 「おはようございます。同じ電車で通勤していたんですね。今まで気づきませんでした」 「同期なんだからタメ口にしないか」  苦笑交じりに応じると、耳打ちしてきた。 「ダーリンがこの沿線に住んでて朝帰り」  望月は間の抜けた相槌を打つと、(あごひげ)が小粋な顔をまじまじと見つめ返した。  田所が照れくさげに頭を搔き、それで得心がいった。つまり目の下にクマができているのは寝不足だからで、寝不足なのはダーリンと夜っぴてイチャついていたからで……。  羨望を覚える。ひとつ布団にくるまり、温もりを分かち合ってすごす夜は身も心も温かだろう。  いや、現在は周回遅れの様相を呈していても、伴侶さえ得られればぬくぬく布団の仲間入りだ。  伴侶って俺? とニヤつく山岸のイメージが浮かんで口をへの字に曲げたとき、降りる駅に着いた。  オフィス街は氷雨にけぶり、傘の花が咲き乱れる。誰もが一様に背中を丸めがちで、葬列を思わせる集団に混じり、田所と肩を並べてスクランブル交差点を渡った。

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