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第51話

  「……気がすんだでしょう、行きますよ」 「そうだな。ご尊顔を拝んだことだし、ラーメンでも食べていかないか」  田所に肩を抱かれて立ち去る背後で山岸が舌打ちをして、客の機嫌を取り結ぶのに苦労したことなど望月は知る由もなかった。  帰宅後、望月は肌身離さずスマホを持ち歩いた。山岸がLINEしてきしだいカクカクシカジカと説明するとともに、浅ましいことをしたことを謝るつもりだった。  だが待てど暮らせど、ウンともスンとも言ってこない。かといって、こちらからLINEするのも癪で、我を張っているうちにすでに夜明けだ。  欠伸を嚙み殺しながら社内報の編集作業を進め、退社するなりちゃんこ料理屋に急いだ。そこが、夕方をすぎて山岸がようやく指定してきた待ち合わせの場所だ。  約束は反故(ほご)にされた可能性が高い、だから連絡がこないのだ、とヘコんでいたぶんも胸が高鳴る。  元力士が経営するちゃんこ料理屋に、山岸の姿はまだなかった。テーブル席とテーブル席は透け感のある布で仕切られていて、山岸の名で予約がなされていた席に落ち着いた望月は、とりあえず生ビールを頼んだ。そして、そわそわと入り口を見やる。  ペナルティを科されたのかもしれない、と思う。山岸の身辺を嗅ぎ回るような真似をしたのが彼の気にさわって、それでぎりぎりまで連絡しない、という報復手段に出たのだ。  だとしたら、山岸が来たら真っ先にゆうべのことを謝罪しよう──。  椅子にふんぞり返り、高々と足を組んだ。二回も突撃訪問を仕かけてきた山岸に対して、こちらはたった一回。下手に出る必要はない。おあいこでいいじゃないか。  だが放っておかれて、やるせない思いを味わったのも事実だ。今も周りのテーブルが盛りあがっていることも相まって、孤独感に苛まれる。数秒おきに腕時計と入り口を見較べ、泡の消えたビールを飲み干したところに、 「ごめん、遅くなった」  山岸が片手で拝む仕種を見せながら間仕切りの布をめくった。心臓が跳ねたがメニューを開き、注文に迷っているふうを装ったのもつかのま、望月は目をしばたたいた。  山岸につづいて、二十歳そこそこの女性が姿を現したのだ。小柄で華奢で色白で、ベリーショートがよく似合う愛くるしい女性が。

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