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第7章 モヤモヤで窒息寸前

    第7章 モヤモヤで窒息寸前      クリスマスソングが街の到る所で流れはじめると、年の瀬という雰囲気が高まる。  クリスマスを翌週にひかえた日曜日。とあるホテルのバンケットルームでは、水面下で駆け引きが行われていた。男女合わせて四十人あまりが集う婚活パーティーが、折りしも開催中なのだ。  イベントが目白押しのこの時期に勝ち組になるか、負け組のまま年を越すのか。その瀬戸際に立たされている彼ら彼女たちにとって、ラストチャンスといえた。  パーティーをきっかけに結婚にこぎ着けたカップルのこぼれ話を披露して、司会者が場を盛り上げようとする。会場には椅子が環状、且つ向かい合わせに二列並べられている。  男性陣が外周側の椅子に、同じく女性陣が内側の椅子に浅く腰かけて挨拶を交わしても話の接ぎ穂に困る。プロフィールカードを交換するのが精一杯で、時間切れの合図とともに男性は一脚ずつ横にずれていき、次の女性と対面する仕組みだ。  望月もその輪の中にいた。女性側の平均年齢はおおよそ三十代前半で、ストライクゾーンだ。  それにしても、と胸元にピンで留めてある番号札をまさぐる。年収、勤め先、両親との同居の有無、喫煙者か否か……等々。  チェックされる項目は多岐にわたり、厳しく採点される男性陣は、ベルトコンベアに乗せられて次の工程に運ばれる部品も同然だ。  チャイムが鳴り、席を移って、また別の女性に「初めまして」と言う。  その繰り返しに内心、うんざりだった。国民はすべからく結婚すること、という法律が仮に制定されたあかつきには、パートナーはで決まれば楽なのに、とさえ思う。  のちほど提出する印象確認カードで口許を隠して、ため息をつく。街のそこかしこに飾られていて見飽きた感のあるクリスマスツリーが、この会場にも鎮座まします。  部下の女子社員にしても寄るとさわるとクリスマスの話でもちきりで、仏教徒なら潅仏会も祝えと、どやしつけたくなる。猫も杓子もクリスマス商戦に踊らされて、貨幣経済の奴隷になり下がっているのだ。  クリスマスをひとりで過ごして何が悪い、山岸がもしも遊びにいこうと誘ってきても絶対に断ってやる!

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