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第61話

 御用納めまでに大車輪で仕事を片づけなければならないのが、ありがたい。備品の管理という通常の業務に加えて、LGBTへの理解度を調べるための全社員を対象としたアンケートの実施。それから社内報の入稿。  それらに並行して取り組むうちに、コンビニの店員はおろか赤ちょうちんの大将まで真紅の三角帽子をかぶって接客にあたる、というぐあいにクリスマスムード一色になった。  街が華やぐ時期に仕事に没頭すればするほど、かえって人恋しさがつのる。  それでも望月は、たとえ自分と山岸を除いて人類が滅亡することがあっても彼に二度と関わるまい、と決意を固めた。スリルもサスペンスもいらない、平穏な毎日が愛おしい。  ただし、そう自己暗示をかければ、ひずみを生じるのは免れない。深夜の共用廊下に靴音が反響し、それが望月の住まいに近づいてくれば、山岸が寝込みを襲いにきたのかもしれない、と飛び起きてしまう。  結局、例年どおり独りぼっちで聖夜を祝う。  そんな独身男はごまんといるのに、淋しさがひとしお身にしみる。メリークリスマス、と山岸とLINEし合うくらいしたかった。  シャンパンをがぶ飲みしたあげく、ふて寝したその翌早朝。望月は玄関先から聞こえてきた物音に眠りを破られた。  泥棒が侵入しようとしているんじゃないだろな、と夢うつつに考える。寝ぼけ眼をこすり、念のために表の様子を確かめにいくと、紙袋がドアの把手にぶら下がっていた。  この界隈で野良猫が惨殺される事件が頻発している、という警告文がマンション内の掲示板に貼られていたことを思い出す。おっかなびっくり紙袋を開いてみると、綺麗にラッピングされたスノードームが目に飛び込んできた。  それには透真と署名があるカードが添えられていて、自然と眉根が寄った。  だが、それを作ったのは山岸でも、スノードームに罪はない。ひとまずローテーブルの上に置くと、眼鏡をかけたミニチュアの羊が野原にぽつんと立っている、というガラス瓶の中の光景に親近感を覚えた。

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