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第62話
羊のモデルは自分だと解釈するのは、自惚れがすぎるだろうか。スノードームを振るとパウダーの代わりに小さな造花が舞うさまが、おとぎ話の一場面のようで心がなごむ。
「これも飴と鞭の一環で、おれを手なずける作戦の小道具なのか……?」
そんな姦計をめぐらすほど山岸の性根が腐っているとは思えないし、思いたくもない。
ただ、サンタクロースをきどってサプライズを演出するようなあざとい真似をするより、直接プレゼントしてくれたほうが何倍もうれしかった。ひと目、顔が見たかった……。
血迷うなと、こめかみを叩いた。爆弾を処理するような手つきでつまみあげたカードを裏返すと、眉間の皺が深まった。
〝待ちくたびれたんだけど? 元旦の午前二時に××神社の鳥居に集合。時間厳守〟。
待ちくたびれたということは、望月から連絡がくるのを待ち焦がれていたということなのか? 横柄にふるまって、人のプライドを傷つけておいて虫がいいにも程がある。
誰が行くか、とカードを破り捨てた。その数秒後、這いつくばってテレビ台の下に入り込んだ小片まで拾い集め、それからあらためて細かくちぎった。
作り手は憎っらしいが、プレゼントは丁重に扱うにやぶさかでない。しぶしぶという体で本棚に飾れば、初代のそれを割って以来、灰色にくすんでいるようだった部屋が色づく。それがまた山岸の思う壷にはまったようで、くやしい。
「押しつけがましく、ナニサマだ……」
正月は帰省していたために神社には行けなかった。それを山岸に待ちぼうけを食わせる免罪符にしようとしても、新幹線も飛行機も高速バスもすでに満席だ。
ならば空港でキャンセル待ちをすればよい話だが、その気になれないのは、すっぽかしたら山岸に悪いと思うせいじゃない、それは断じて違う。
大みそか当日。除夜の鐘の音が夜のしじまに溶け入るうちに、そわそわしだした。
テレビの画面で、お笑い芸人が馬鹿騒ぎを繰り広げる午前一時。望月はコートを羽織るのももどかしく、表に飛び出した。
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