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第64話

 木から木へとロープが張り渡され、神社の名が染め出された提灯が吊り下げられている。それらが淡い光を投げかけ、参拝客が影絵めいて幻想みを帯びるなか、じりじりと進む。  望月は、わずかに高い位置にある横顔を盗み見た。鼻持ちならないようだった先日とは異なり、やわらかな笑みを浮かべていて今にも鼻歌を歌いだしそうだ。  しかし、と思う。一緒に初詣にくる相手ならアミをはじめとしてよりどりみどりだろうに、自分を誘うとは意外に友だちが少ないのかもしれない。カップルがわんさといる中に男ふたり。不毛だと、ため息をつくそばから頬がゆるむ。  と、山岸が望月の全身に目を走らせたあとで、がっくりとうなだれてみせた。 「ネクタイの柄もイマイチだったけど、マジにファッションセンスはゼロだね。いまどきダッフルコートなんて、ありえないっしょ」 「大学時代に購入したさいに、流行に左右されないデザイン、と店員に勧められたものだ。お気に入りなんだが、おかしいか」 「俺が婚活パーティーで知り合った女子だとしたら。その恰好でデートの待ち合わせ場所に現れた時点で即、帰るね。で、今年の抱負はやっぱ婚活なんだ」    後生だから否定してほしい、というトーンがひそんでいるように感じられたのは、単なる空耳だ。 「いや、独身貴族というやつを謳歌してからでも遅くない、と考えを改めた。生殖能力のあるうちに結婚できれば、めっけものだ」    それを聞いて山岸は、目尻にくしゃりと皺を刻んだ。望月が息を吹きかけながら両手をこすり合わせると、その手を摑みとってブルゾンのポケットにいざなう。 「男同士で手をつなぐなどドンビキものだ」 「別にいいじゃん、カイロだと思えば」  ぎゅっと手を握りしめてくれば胸がきゅんとなり、仏頂面に照れ笑いがにじんでしまう。おずおずと手を握り返し、思いがけずかさついた感触に痛ましさを覚えた。 「……指先が、ずいぶん荒れてるな」 「クリスマス前後の美容院なんて戦場で、数こなさなきゃだからどうしてもね。営業中、立ちっぱなしで足が太くなったかも」 「ハードな仕事だな」 「気障な言い方をすれば美に貢献してるの。超がつくダサ男の望月さんを変身させるのは、趣味と実益を兼ねてるかな」    望月がそっぽを向けば、山岸もぷいと横を向き、それでいて玉砂利を踏む音は重なり合って響き、美しい調べを奏でる。

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