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第67話

「並び疲れたときは糖分補給。食べなよ」 「おれは甘いものは苦手で……」  と断ったそばから口許に押しつけられて、しぶしぶかじりとる。上顎にへばりつくような食感に顔をしかめると、 「俺のアレを銜える練習だと思って丁寧に舐めてね。特に先っぽは優しくね」  ねっとりと囁かれてチョコチップが喉につまった。冷ややかな一瞥をくれると、山岸は澄ましてフランクフルトにかぶりついた。  あたかも、お手本を示すようだ。口角をヘコませてフランクフルトを食み、串を持った手を前後に動かす。時折、口を離してケチャップとマスタードを舐めとってみせる。  望月は右手を目の高さにあげた。ペニスとバナナの共通点を強いて挙げるなら、ゆるやかに湾曲している棒状の物体であることだが、 「焦らすなんて意地悪だな、銜えて」  暗示をかけるようにたたみかけられると、両者の差異は限りなくゼロに近づく。  ごくり、と生唾を吞み込んだ。串を持ち直すと、意を決してチョコバナナに唇を寄せる。ぷつり、と黒褐色の衣を舌で割っておいて、熟した果肉をねぶった。ひと口、またひと口とバナナに歯を立てるにしたがって、チョコレートに催淫性があるように躰の芯がざわつきはじめる。  本格的にバナナにむしゃぶりつけば物足りなさを覚え、そのぶん舌づかいは大胆さを増して果肉をごっそりとこそげる。  山岸のアレはこれの倍は太かった、と直径を計るように唇をすぼめた。第一、味わい深さでいえば、甘ったるいばかりのバナナとは較べ物にならない。いきり立てばほろ苦い雫がしみ出して、コクのあるその雫を夢中になってすすった。  バナナが朱唇を出たり入ったりするさまは、傍から見れば擬似口淫以外の何ものでもない。本人に自覚がないのが幸いで、望月はそれが裏筋であるかのようにバナナを貫く串を甘咬みした。ジーンズの中心へと視線が流れると、それは物欲しげなぬめりを帯びる。   前後不覚に酔いつぶれているところを手込めにしておきながら、山岸があれっきり性交に及ぶそぶりを見せないのは、自分にセックスアピールが欠けているせいなのか。  愛慾に溺れたいなどとはこれっぽっちも思わないが、手を出してこられないと淋しいものがある。

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