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第9章 これって、つまり……?
第9章 これって、つまり……?
恵方巻と書かれたのぼりが、コンビニの店先ではためく。
黙りこくって太巻きを丸かじりする行事の何が楽しいのだ。望月は、のぼりが結わえつけられているポールをひと睨みしてから店に入った。
レジに直行して、ドリップ式のコーヒーを注文する。財布を開いた拍子にカードホルダーに挟んであった、おみくじがすべり落ちると眉根が寄る。
一年の計は元旦にあり、とは言いえて妙だ。大凶をひいた今年は、きっと苦難つづきだ。
と、ぼやきつつもおみくじを拾い、丁寧にたたんだうえで元通りしまった。
紙コップを取り出し口に置き、コーヒーが抽出されるのを待つ間に、レジ正面の棚を見るともなしに眺める。すると仇敵に相まみえたように、目つきが鋭くなった。
バレンタインデイのコーナーが設けられていて、それが無性に癇にさわる。
節分で荒稼ぎするかたわら別のイベントにも便乗するとは節操なしめ。製菓メーカーがチョコレートの売り上げ増を狙って陰謀を企てたばかりに、男たちの間に厳然たるヒエラルキーが存在することが世間に知れ渡ったのだ。
口をへの字にひん曲げながらも箱をひとつ手に取って、矯めつ眇めつする。安っぽい包装紙といい、カカオの含有量といい、用途はいかにも義理チョコだ。だが友チョコなる風習が定着した昨今、これなら山岸にあげても洒落で通用するかもしれない。
アホか、と苦笑交じりに箱を棚に戻した。下手な気まぐれを起こしてチョコレートをプレゼントしようものなら、どれだけからかわれるかわかったものじゃない。
それに仕事柄、山岸は山ほどチョコレートをもらうはずだ。それには本命に贈るものが含まれていて、それが山岸のハートを射止めるかもしれない。
山岸に恋人ができたら、望月に割り込む余地はない。だから、どうなのだ。
剣吞なオーラを放ちながら出社した結果〝新規参入を狙う業者からリベートを渡されるも突き返した〟説がまことしやかに囁かれ、株が上がった。
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