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第71話
ともあれ総務部の自席に着くと、いつもどおり社内メールをチェックした。急ぎのものに返信して、始業後は各種の納入業者と面談するというぐあいに、あわただしくすごす。
その合間に部下が書類の確認を求めてくれば、改善すべき点に助言を与えつつも、ともすれば意識が山岸に向かう。
初詣に一緒に行って以来、LINEのやりとりが復活した。といっても内容は雑談に終始して、望月は巧妙にはぐらかされているように感じるのが常だった。
もやもやするものがはびこる一方の胸のうちを的確に言い表し、それを山岸に伝える言葉は、望月の語彙にはない。いきおい文面は「今日も寒いな」という類いの素っ気ないものになる。業務連絡、と山岸におちょくられるたびに、かえってその日見聞きした面白い出来事を綴るのがためらわれてしまう。
と、女子社員がデスクの前に立った。
「あの、係長? 来週の月曜日に、有休をいただきたいんですけどぉ……」
休暇願いを受け取るさいに、ウザい、と無意識のうちに呟いて涙ぐまれた。
「ち、違うんだ! ウザいのはおれ自身のことであって、きみを罵倒する意図は全然なくて、では何がウザいかといえば何に悩んでいるのかわからないのに何かに悩みっぱなしの自分がウザくてうんざりなんだ!」
力説すればするほど、しどろもどろになるありさまだ。望月には難度の高い技だが山岸の人あしらいの上手さを見習って、
「ひじょうに反省している。すまなかった」
このとおり、と両手を合わせた。それで、その場は丸く収まったのもつかのま、ひと癖もふた癖もありげな笑顔が目の前にちらつけば、また堂々巡りに陥る。
土、日が休みの望月に対して、平日休みの山岸とでは、予定をすり合わせるのは難しい。にもかかわらず半月足らずのうちに三回会ったのは、頻度が高いほうなのか。
一回目は先々週の火曜日に山岸が望月の昼休みに合わせて出向いてきて、オオトリ化学の近くの洋食屋でランチを共にした。
先週末はバッティングセンターに行こうと誘われて、ふたつ返事でOKした。そのさい山岸がやすやすと打ち返した球速百三十キロのボールはホームランパネルを直撃して、隣のブースにいたふたり組の女子にコーチを頼まれた。
望月は、スキンシップつきの熱血指導に大いにやきもきさせられたものだ。
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