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第79話

 覆いかぶさってこられて既視感(デジャ・ヴュ)をに目を白黒させた。これでは、バックヴァージンとやらを奪われた夜の再現だ。  おれは酒で身を滅ぼすタイプなのか、と今さらめいて蒼ざめる。未遂で終わればそれですむ話じゃない、田所にのしかかられた時点で山岸に対する背信行為だ。  望月は頭突きをかまして返しざま、猛然と身をよじった。だがスプリングがへたり気味のソファベッドは、反動をつけて跳ね起きようとしても逆に躰が沈むシロモノだ。  プロペラのように腕を振り回しながら足をばたつかせる。もっとも、もがけばもがくほど上着が半端に脱げて袖が腕にからむありさまだ。  田所を撃退するどころか、むこうずねに膝をめり込ませてくる形にソファベッドに押しつけられたら、ますますもって身動きがとれない。  さらに粘っこい視線が全身を這い回る。田所曰く出歯亀が通路に鈴生りになって舌なめずりをするさまに、身の毛がよだつ。 「手始めにを拝ませてもらおうか」 「やめてください、っていうか、やめろ!」  スラックスが乱された。ボクサーブリーフの上からペニスの輪郭をなぞられると、吐き気をもよおす。望月は頭を打ち振り、その拍子に派手にずれた眼鏡のツルで目尻を切った。  山岸だけだ、と叫ぶ。身も心も奪い、のさばり返ってくれてかまわないのは、山岸透真ただひとり。  と、フロアがにわかに騒がしい。怒声と悲鳴が飛び交ったにとどまらず、逃げ惑うふうの靴音が入り乱れ、中でも荒々しいものが通路に反響する。  ギャラリーが蹴散らされたのにつづいて、蝶番を引きちぎる勢いでドアが開け放たれた。山岸がすさまじい剣幕で飛び込んできて、田所の腕をねじりあげた。

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