「このひと俺のなんで、変な癖をつけないでもらえます？」 「山岸くん、きみは超能力者なのか？　どうやってＳＯＳを受信してくれたんだ……？」 「生中継。あんたらが飲みながらイチャついてるっぽいとこから……」 　いっそう、ぎりりと腕をねじった。 「押し倒されるとこまで全部、ライブで聞かされてた。ＧＰＳで位置を特定して迎えにこなきゃ、この男に寝盗られてたんだよな」 　山岸は憮然とスマホを操作すると、画面をこちらに向けた。今しもソファベッドから蹴り落とされつつある田所がＶサインを掲げるさまと、映像がシンクロした。 　つまり望月のスマホを取り上げたのは、一計を案じたがゆえのこと。 　田所はドサクサまぎれに発信ボタンを押し、さらに二元生中継方式でオオカミに変身する場面を演じて、電話に出た山岸を巧みにおびき寄せるという芸当をやってのけたのだ。 「あんた、迫られやすい体質してるんだから気をつけろって忠告しといただろうが」 　山岸はネクタイをたぐり寄せるようにしながら望月を立たせるとともに、ぶっ殺すぞ、といいたげに異様にぎらつく目で田所を睨み、 「我ながらグッジョブ。恋のキューピッドへの報酬は社食のスペシャル定食で」 　当の田所はウインクをよこしたうえで望月にスマホを返した。 　田所さんに盗(と)られる前にオモチャを回収できて、駆けつけてきた甲斐があったな。たとえ冗談めかしてでも、そんな憎まれ口をたたけば殴られそうな雰囲気だ。 　望月は否応なしに押し込まれたタクシーの後部座席で縮こまった。