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第10章 きみ色に染められて

    第10章 きみ色に染められて  タクシーは粉雪が舞うなか、こぢんまりとしたマンションの前で停まった。そこの一室が山岸の住まいで、望月はユニットバスに放り込まれるなり湯を浴びせかけられた。  上着はおろか、瞬く間に肌着までずぶ濡れになる。十文字に交叉させた腕で顔をかばいながら、仁王立ちになってシャワーヘッドをかまえる山岸を()めあげた。 「濡れネズミにしたうえで放り出す気か。おれが風邪をこじらせて肺炎にでもなれば満足なのか」 「俺以外の男にさわらせた。消毒だ」 「偉そうにナニサマのつもりだ」  それを聞いて、山岸はようやくシャワーを止めた。細い(おとがい)を指で挟みつけて望月を仰のかせると、レンズの奥の双眸を見つめた。 「俺のことが好きなくせして、ふらふら遊び歩った人はおしおきしなきゃね」  瞬時、機能停止に陥った心臓が、どんどんと肋骨を叩くようだ。  望月はぎくしゃくと後ろにずれ、足をすべらせたところで腕を摑まれた。頭からタオルをかぶせられて、上着をむしり取られるまま、怒りのオーラを放つ山岸につづいて浴室を出た。  そこは、白を基調としたワンルームだ。大小さまざまなスノードームがオープンシェルフに飾られていて、それの真向かいに据えられたベッドとの間の床に座らされた。 「あんたさ、さっきの男とグルになって俺を試したんじゃないよね。小細工は嫌いだよ」  怒気をふくみつつも、おっとりした口調でそう囁きかけてくるとネクタイをほどき去る。  金縛りが解けたように、頭がまともに動きだした。望月はざっと髪の毛を拭くのもまだるっこしく、居住まいを正した。 「はなはだ不本意だが、どうやらきみにメロメロなのだと思う。できれば恋人にしてほしいのだが、大それた望みだろうか」 「切り札は最後まで取っとくのが鉄則なのに、あっさり手の内をさらして。望月さんのそういう恋愛音痴な感じって相当ツボ」    山岸は不敵な笑みを浮かべるとクロゼットを漁り、取り出したものを後ろ手に隠した。 「二択です。ちなみにパスはなしね。革と布じゃ、どっちが好き?」  嫌な予感しかしない。目をつぶるようにと急かされて不承不承したがい、革と、か細い声で答える。  その直後、両の手首にひんやりするものが巻きつけられて、咄嗟に腰を浮かせると、そのぶん腕を斜め下にひっぱられた。

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