82 / 87

第82話

 カチャカチャという金属がこすれ合う音に血の気が引き、薄目をあけてみると、幅広で革製の手錠をはめられていた。 「……これは、いったいなんの真似だ」 「恋人に志願してくれたお礼に、俺流の洗礼を受けてもらおうと思って。ちなみに布を選んだ場合は、これで縛ってあげてた」  そう、うそぶいてロープの束を掲げた。  仰向けにベッドに突き転がされて、ヘッドボードに頭をぶつけた。望月は柳眉を逆立て、次いで唇を嚙みしめた。  告白してもケンもホロロにあしらわれるのが関の山、と予想していた。案に相違して好感触を得たといえるが、手放しで喜ぶわけにはいかない。  手首を口許に持っていき、バックルに歯を立てて手錠を外しにかかる。  だが山岸がひと足先にベッドに上がり、拘束しておいた両腕を万歳する形に顔から引きはがすとともに、望月の耳の両脇に膝をついた。そしてボトムをくつろげて自身を摑み出しながら、顔面に騎乗する寸前まで腰を落として曰く。 「チョコバナナで練習した成果をみせて」 「これが洗礼……なのか?」  呆然と呟いたあとで、図太さが際立つ顔を()めあげた。一拍おいて、ごくりと唾を飲み込んだ。  男としてこれほど屈辱的な構図は滅多にないわけだが、逆に闘志が湧く。この試験に合格した先には、薔薇色の未来が待っているかもしれない。ならば年上らしく器が大きなところをみせて、山岸を唸らせてやろう。  意気込みとは裏腹に、ためらいが先に立つ。口を真一文字に結ぶと、これは序の口だというふうに穂先で唇を掃きたてられた。  生理的な嫌悪感をねじ伏せて、唇の結び目をゆるめる。記憶をたぐる。たしか山岸は、いわゆる裏筋を舐めあげられるのが好きだったはず。  早速、そのポイントに舌を這わせる。ただし手錠をはめられているせいで、ねぶりやすいようにペニスを捧げ持つにも難儀する。 「へえ……特訓しただけのことはあるね」  じわじわと雄が頭をもたげて舌を押し返してくる。手応えを感じると奮い立ち、流線型のラインを丁寧についばむ。  他方、濡れたワイシャツが肌に張りつくと、あえかに尖りはじめている乳首の影が浮き出た。

ともだちにシェアしよう!