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第83話

 地道に努力するに()くない。なので、望月はハモニカを吹く要領で唇をスライドさせ、はたまた口腔の奥行きいっぱいに迎え入れた。  これが……と先端を熱っぽく吸いたてる。今は芯にまだやわらかみを残すこれが荒ぶれば、いつかの夜のように後ろをこじ開けられて激痛にのた打ち回ることになるのか。   本能的な恐怖におののくわりには、陰門が甘ったるく疼く。生煮えの状態に終止符が打たれるなら、いたぶられても本望だ。 「ん、ん、むぅ……ん……!」  口の周りをべたべたにして山岸を育てていくにつれて、スラックスの前がはち切れそうになる。先端に露を結ぶはしから、芳醇な雫に舌鼓を打つ一方で、過日にスパルタ教育をほどこされたとおり、舌づかいに緩急をつけて幹をあやす。 「言っとくけど俺、より好みが激しいんだ。出張カットする相手は、かけがえのない人」  もっと奥までと、せがむふうに突き入れられてえずいたものの、根元まで頬張った。 「俺さ、カットはもちろんだけどカラーの指名客も多いの。俺自身、明るいトーンで染めてあげると地味顔がいっぺんに華やぐカラーに美容師魂が燃えるんだ」  濡れて栗色を濃くした髪に指がからむ。 「光源氏にシンパシィで、好きな映画は〝マイ・フェア・レディ〟。このふたつに共通してるのはね、ざっくり言うと、えりすぐりの人を自分色に染めようとするとこ。望月さんは俺好みに躾けられちゃう覚悟はある?」    棒状に膨らんだ頬を撫であげられて、一も二もなくうなずいた。 「相性よさげだって直感して声をかけたんだ。面食いの俺が、ダサ男だったころの誠二に」   運命の出逢いに思いを馳せた拍子に、くびれを舌でブラッシングする形になった。  山岸が呻き声を洩らし、腰を上げた。口の中に放出されずにすんでホッとするより、濃厚なエキスを味わいたい気持ちが勝る。  望月は自分のさもしさに呆れつつも、再び猛りにむしゃぶりついていくべく起き直り、そこにのしかかってこられて後ろざまに倒れた。

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