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第85話

  「()れてくれと、せがめば満足なのか。ならば頼みがある。きみが……透真が挿入(はい)ってくるときの表情(かお)が見たい。前から抱いてくれ」    と、望月が目縁に紅を()いて(こうべ)を巡らせると、サディスティックなものを漂わせていた顔つきが、切迫感に満ちたものへと変化した。  荒っぽく仰向けにひっくり返された。眼鏡が弾んで鼻梁を打ち、ワイシャツがめくれあがる。下肢がすかさずVの字に割り開かれ、左右の足をそれぞれ肩にかつがれた。尻たぶとシーツの間に膝が差し込まれるが早いか、穂先がギャザーをかき分けにかかった。  山岸が全体重をかけて前にのめった。めりめりと入り口が裂けるようで、悲鳴が迸った。 「っ、ぁああ……っ!」 「リクエスト通りだろ。ちゃんと俺を見ろ」  押し出そうとする動きに逆らって猛りが突き進んでくれば、内臓がせり上がるようだ。額が脂汗にまみれて眼鏡がすべっても、つながりを解こうとはこれっぽっちも思わない。  山岸が、がっついてくれるのが心底うれしい。望月がはんなりと微笑むと、怒張がひと回り大きくなった。  抱き起こされた。うがたれる角度が変わると呻き声が洩れる。望月はしゃにむに唇を重ねていきながら、進んで交わりを深めた。  頭のてっぺんから爪先まで、あまねく山岸に満たされる。ゆるやかに律動が刻まれはじめると、徐々に痛みが薄らいでいく。  山岸が最奥で脈打つ感覚が愛おしい。これが恋か、恋なんだな。胸にじぃんときて、そのぶん舌と舌でじゃれ合った。 「マジに俺を好きになってくれるまで手こずらされたなあ。我慢させられたぶん、しっかり責任とってもらうからね」  山岸が、にんまりした。手錠を中心に輪になった腕に頭を通すと、力任せに突き上げた。 「だめだ、またク……る……っ!」  先走りがしぶけば、間髪を入れずに根元を(やく)された。ペニスがひしゃげ、堰き止められた熱液が(くだ)を行ったり来たりして、苦しい。  先が思いやられる。望月は、甘さがとろりとにじむため息をついた。お手柔らかに、と頼めば、Sっ気の強い山岸は嵩にかかってイケズな真似を仕かけてくるに違いない。  だが割れ鍋に綴じ蓋という。恋愛面のスキルが小学生並みの自分には、きっとその分野のエキスパートといえる山岸が合っているのだ。   むずかるように内壁が狭まると、雄がいちだんと猛り狂う。望月は、ぎこちないなりに襞を引きしぼった。  恋をレースに喩えれば、スタートラインに立ったばかり。山岸を心身ともに慈しむ(すべ)を、これからゆっくり学んでいこう。  眼鏡をむしり取った。不埒な面も愛しい青年に、心ゆくまでくちづけた。

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