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嘘の種から実の花が咲く話 5
「――それでね、優介くんは『返事はすぐじゃなくていいから』って言ってくれたんだけど……」
「でも待たせすぎるのは良くないって思うんだ? 優しいな、陽は」
大きな音を立てた後、雲雀はしばらく動かなかったけれど、動き出したらいつもの雲雀だった。着替えを終えて、おれの隣に座ると優しく背中を撫でて「詳しく聞かせて?」といったから、全部話した。優介くんに告白されたってことも、びっくりして昼休みが終わるまで固まってたことも。
告白されたの自体は初めてじゃない。高校に入学したばかりの頃は何故か多かったけど、おれは全部断ってしまった。みんな知らない人だったし、二年に上がる頃には誰からも告白されなくなったから、何かの間違いだったのかなって思うことにした。
でも、今回はあの優介くんだ。いつも優しくて、かっこよくて、頭もいい。雲雀と比べると目立たないけど、人気がある。おれも好きだ。でもそれは、友達としてだった。
「どうしよう……? 優介くんのことそういう風に考えたことない……」
「じゃあ断れば? 友達でいよう、って」
「で、でも……」
優介くんがどんなにいい人か知っているから、断ってしまうのは申し訳なかった。いつも笑顔の優介くんが、あんなに真剣に伝えてくれた想いを、ただ拒絶してしまってもいいのだろうか。
「……一度お付き合いしてみた方がいいのかな……? 雲雀はどう思う?」
たくさん告白されてきた雲雀なら、こういう時どうすればいいか答えをくれるかもしれない。雲雀はじっとおれを見つめて、少し考えているみたいだった。
「……優介と付き合うってことは……」
「うん」
「俺と別れるってこと?」
「……ん? ……え? ええ?!」
おれは雲雀を見つめたまま首を傾げて、数秒固まった。しばらくしてから思考が動き出して、思わず声をあげる。
「おっ、おれたち付き合ってたの?!」
「え? なんだよ今更……」
雲雀は呆れたような声で、不思議そうな顔をしておれを見ている。落ち着いた雲雀の声に、ますます混乱した。
雲雀はいつだって正しい。だからきっと、間違っているのはおれなんだ。だけど、そうだとしても、おかしなことがいくつもあって、頭の中がめちゃくちゃだった。
「で、でも、雲雀も告白されてたよね?! 恋人 がいるのに?」
「まあ、皆に言ってないからなぁ」
「え? あ、そ、そっかぁ……」
おれは納得して頷いた。知らないなら仕方ない。おれも知らなかったもん。
「……でも、いつから……?」
「中学の時に、俺が「付き合うなら陽がいいな」って言ったら、陽も「おれも、雲雀が好き♡」って言ってくれたよ?」
「……そうだっけ……?」
「そうだよ。忘れちゃった?」
雲雀は困ったような、寂しそうな顔で笑っている。なんだか俺も悲しくなってしまって、一生懸命中学の頃のことを思い出した。
「……うん! そうだったかも!」
どうしてそういう会話になったのかは覚えていないけれど、どんな子が好きなのかという話をしていた気がする。高校に上がる少し前だっただろうか。『付き合うなら陽がいい』って言われて嬉しかったのは思い出せた。
そうだ。雲雀の言う通りなら、あれが告白だったのかもしれない!
全ての疑問が綺麗に解決したけど、おれはあまりの衝撃に呆然としていた。
「恋人だったんだおれたち……」
「そうだよ?」
「……ご、ごめんね? 他の人と付き合ってみようかな、なんて言って……」
恋人がいながら、なんて不誠実なことをしてしまったんだ。そんなおれにも雲雀はいつものように優しく微笑んでくれた。
「陽が優介の方が好きなら仕方ないよ。悲しいけど、別れるってんなら……」
「ううん! おれ、雲雀が一番好きだよ!」
雲雀の寂しそうな顔に、思わずぎゅっと抱きついた。許してくれるかな、と不安で、気持ちを込めて強く抱きしめる。すると、雲雀もぎゅっとおれを抱きしめてくれた。
「よかった……。俺もだよ」
雲雀の言葉にほっとする。もう二度と悲しい顔も寂しい顔もさせてはいけない、とおれは心に誓った。
「ちゃんとお断りしてくるね!」
「そうだな、早い方がいいよ」
「うん!」
雲雀が笑っているので、おれも思わず笑顔になる。雲雀が告白されるたびに、不安で仕方なかったけど、そんな必要なかったんだ。雲雀はずっと前からおれを選んでくれていた。
どうして気づかなかったんだろう。もったいないことしてしまった。
でも雲雀は幼馴染で親友で、そして、恋人なんだ。これからもずっと一緒にいられるなんて、幸せだ。
「……ごめんな。恋人らしいことなんにもしてないから、わかんなかったんだよな?」
「恋人らしいことって?」
おれは期待を込めて雲雀を見つめると、雲雀は少し驚いた顔をした後、笑った。こっそり内緒話をする時みたいに耳元に寄って、囁く。
「……したい?」
「うん♡」
「そっかぁ、じゃあまた今度な」
「うん♡」
恋人らしいことってなんだろう? その日が来るのがとても楽しみだ。
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