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既成事実 1

 昔から、みんなの輪の中心が俺の居場所だった。自慢というわけではなく、ただ気づいたらそうなっていた。目立つ容姿と色を持って生まれ、大抵のことはできたし、できない人を助ける余裕もあった。そうやっているうちに、いつでもどこでも何をしてても、必要とされ、求められ、愛されるのが当たり前になっていた。忙しいと思うこともあるけれど、苦には感じない。それが俺の日常だ。  だけど。    教室を覗き込み、窓際の席に目を向ける。  肌は雪のように白く、髪は濡羽色。伏せがちの瞳には長い睫毛が影を落とし、目の下に二つの黒子が品よく並んでいる。本を読んでいるだけなのに、青春と葛藤、成長と挫折に目紛しい学園の中で、そこだけ時間の流れが違う。惹き込まれて、喧騒が遠ざかっていく。 「(はるの)」  名前を呼ぶと、顔を上げた。自分を見つけると、ふわり、と花が咲くように微笑む姿が愛らしい。思わず頬が緩むが、周りにまだ人気があることに気づいて気を引き締める。 「……帰ろっか?」 「うん!」  陽が隣に並び、歩き出す。  自分の時間を丁寧に生きている陽の隣では、穏やかな晴れの日の雲のようにゆったりと時間が流れていた。無意識にほっと息をついて、俺は自分が少し疲れていたことを知る。陽に気付かれないように、ゆっくり深呼吸をした。    ここは空気が澄んでいる。

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