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既成事実 3

 陽は今もぶっちぎりで可愛らしいが、入学当初はもっと小さくて細くて、もはや美少女と言っても過言ではなかった。過言かもしれないが、俺からみたら過言ではない。  俺も目立っていたとは思うけれど、入学した頃にはすでに身長もあったし、目つきも強い方だ。それに比べて陽は、男子校に入学した仔羊のような美少年で、簡単に手折れそうな可憐な花だった。当然、名だたる上級生や自分に自信のある同級生に目をつけられたし、仔羊に狼が群がるのも時間の問題かと思われただろう。  しかし、周囲の思惑に反して、陽はどうにもならなかった。熱烈なアプローチも、強引な誘いも全部ひらりひらりとかわし、邪険にせず受け取ってくれるが返すことはなく、目が合えば愛らしく微笑み、かと言って流されることは決してなく、告白という告白すべてことごとく断ってしまった。陽いわく「あんまり知らない人だったから」らしい。  みんな知らなかったんだろう。陽がこんなにもしたたかで芯の強いことも、特に理由も意味もないけど優しいんだってことも。愛され慣れているってことも。  二年に上がる頃には、指一本触れられず泣く泣く卒業していく先輩や手を繋げたとか微笑んでもらえたとか会話したとか、そういう思い出を胸に生きていこうと決めた連中が多く、告白されることは無くなった。  その『難攻不落の城』は俺の部屋に来ると当然のようにベッドに座って、俺の着替えが終わるのをお行儀よく待っている。  ベッドに座っちゃうんだもんな、こいつ。この無防備さで『難攻不落の城』なんて少しおかしい気もするが、俺の前でだけだから可愛らしい。今後もそれで頼む。

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