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既成事実 4

「あの……そ、それで……?」  震えそうな声に振り向くと、ぎゅっとクッションを抱き締めた陽が俺を見つめていた。ちょこん、と座った陽が、さらにぎゅうっとクッションを抱きしめて小さくなっている姿に、俺の胸もぎゅうっと締め付けられる。  本当に最初は、ただ防犯上必要だと思ったから伝えていただけだった。  それなのに俺は最近、この時間を密かに楽しんでいる。 「告白されたんでしょ? ……どうするのかなって」  チラリと上目遣いで見つめられ、瞳は不安そうに揺れている。あまりにも可愛らしい。クッションごと抱き締めてしまいたい。  けれどいきなりそんなことをしたら、陽が驚いてしまう。今だって不安で萎れてしまいそうだ。隣に座って、背中を撫で、努めて優しく「断ったよ」と伝えると、陽の表情がぱぁっと明るくなった。陽が笑うと花が咲いたみたいだ。ぽぽんと花が舞う幻覚も見える。 「ほ、ほんとに?」 「うん。安心した?」 「うん! ……あ、う、うん……」  思わず悪戯心が疼いて意地悪な質問をしてしまった。陽は自分の答えに落ち込んだようで、俯いている。なんて清廉で優しいんだろう、そんな陽になんてこと聞いてるんだ。そんなこと、聞かなくてもわかっていたというのに。  俺は陽の細い肩を抱き寄せて、小さくて形の良い頭を撫でる。細っこい髪の毛がサラサラと指先に触れた。桜貝のような爪や髪の毛の先まで隙なく可愛らしいとは、なんて尊い生き物なのだと改めて感心する。 「今日も親遅いんだろ? 夕飯食べていく?」 「……うん」  顔をあげた陽が笑顔を見せる。まだ何か不安があるのかもしれない。生まれた時からずっと一緒だったから、それくらいわかる。  けれど、不安を押し隠す健気さに胸が痛みながら、同時に暗い喜びを感じている。  これが大いなる悩みの種だった。  どう考えてもこんな形で陽からの好意を確認するのは、健全ではないだろう。毎晩、思い出すと胸が潰れそうになる。あんな、不安を押し殺したような笑顔をさせて、どうして好きだと伝えられようか。  そう、俺は陽が好きだ。物心ついた頃から、誰よりも好きだった。  陽をどうしたいとか、なにをしたいということではない。少しは考えるけど、二の次だ。  それよりもただ、陽がずっと隣で笑っててくれればいいだけなのに。

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