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既成事実 5
「おれ! 告白されちゃった!」
ハンガーをかけようとした手が滑って、ガタガタンッ!! と一際でかい音が響く。危なくクローゼットの中に頭を突っ込むところだったが、踏みとどまった。
衝撃が全身を貫いて、しばらく体が動かなかった。けれど、俺は混乱している陽をこれ以上不安にさせたくない。俺は俺で陽以上に混乱しているが、陽は『いつでも冷静で優しい幼馴染』の俺を頼っているはずだ。
大丈夫、俺ならできる。今までなんでもできたし、できないことはなかった。そう、陽への告白以外は。うん、だからこんなことになってるんだよな!
内心の大混乱は決して表には出さないように、ゆっくりと着替えて、平静を装い、とにかく全身全霊の力を使って優しい声を絞り出す。「詳しく聞かせて?」と背中を撫でると、陽は不安そうな顔を少しほっと緩ませて、少しずつ話し始めた。
「――それでね、優介くんは『返事はすぐじゃなくていいから』って言ってくれたんだけど……」
「でも待たせすぎるのは良くないって思うんだ? 優しいな、陽は」
小さく頷く陽の瞳は、不安で揺れている。
優介、お前にこんな根性があったとは。優しくていい奴だとは思ってたけど、見直した。
だが、困った。入学当初に告白してきた上級生や同級生と違って、優介は陽と仲が良い。案の定、陽は迷っているみたいだった。
「……一度お付き合いしてみた方が良いのかな……? 雲雀はどう思う?」
陽がじっと見つめてくる眼差しが清らかすぎて、目を逸らしたい。陽は本当に迷っているんだろう。陽の気持ちを確認したくて、好意を試すようなことをしていた自分が恥ずかしい。
優介なら陽を幸せにしてくれるかもしれない。それは間違いない。俺も優介がどんなに良いやつか知っている。「お前がそうしたいと思うならそうすればいいよ」と言ってやれば、きっとうまくいくだろう。それが正しい。きっと、そう言うべきだ。
「……優介と付き合うってことは……」
「うん」
「俺と別れるってこと?」
「……ん?」
……ん? んん??
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