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高校受験
最初の掛け違いは高校受験だった。
電車の中でキスしたあの時、まだ変更はできたけれど大体の志望高校は決まっていた。
いよいよ本格的に進路を決めるように迫られ始めた中学3年の春。京の事を追いかけて同じ高校を志望した事もあった。僕とは成績も性格も全く違う京の志望は勉強より実技重視の就職の為に通う工業学校で、突然そこを志望した僕に親も先生も「何で?」と志望校の変更を迫った。もともと『京を追いかけて』意外の明確な理由の無かった僕は、上手くいくとは思えない恋に見切りをつける為にも、別のそこそこ進学率の高い普通高校に志望を変えた。
秋になって幼馴染の茂や武たちの協力で諦めていた恋が思わぬ進展を遂げて、僕は再び志望校の変更を考え出した。けれど突然のそれに親も先生もいい顔をせず、それどころか一緒にいたいと考えた京にすら「もったいない。勉強が嫌いじゃないなら選択肢の多い進路を選べ」と大人と同じ説得をされ、結局京とは別々の高校を受験することにした。
僕とは違って先の事を考えているんだと京を眩しく思うのと同時に、僕と違って一緒に居たいと思わないんだと寂しく思った。あの時、京と同じ高校を選んでいたら――と何度思っただろう。将来的には正解でも、今みたいな後悔はする事は無かったんじゃないだろうか。
中学3年最後の冬は僕にとっての蜜月だった。
初めて選ぶ自分の進路とキリキリと追い詰められるような受験戦争に胃が痛くなるような思いはしたけれど、京は「偏差値が低い高校志望だから受験なんてあって無いようなものだ」と笑って出来る限り僕に合わせて時間を作ってくれた。
指の先から凍えるような寒い夜、塾近くのコンビニで「買い物のついで」と待っていてくれた。京の家からは近いとは言い難くてついでにで来る距離じゃない。同じ塾に通っていた茂と自転車を押す京と三人で歩いた帰り道。校外で見る京は学校と別人のように見えて触れそうで触れないもどかしい距離にドキドキした。
近所に住む茂と家の側で別れ、それから自転車を停めて玄関横の生垣に隠れて手を繋いで二人で話した数分間。学校で『友達』してる時と全く違って上手に喋れず途切れがちな会話に焦る僕に「話さなくても解ってるから、頑張らなくてもいいよ」とそっとキスしてくれた。
あの時の、冷たくて温かい唇は今でもはっきりと思い出せる。
そこには僕の初恋の全部が詰まっている気さえする。
高校受験が終わり卒業式を迎えて合格発表が終わると、開放感と一緒に堪えきれない寂しさがやってきた。新しい生活への期待より理由がなければ京に会えない事が悲しくて、京の他にも茂や武、クラスメイト達と別れを惜しむように遊び回り、予定の無い日は家の中で鬱々と過ごした。
する事の無い日は京からのメッセージを待ち続け、直ぐに返信したら重いかもと余計なことまで考えてわざと時間をずらしたり、毎日会いたいのに会えない日を作ったりした。
今思えば本当に無駄な事ばかりなのに当時の僕は真剣で、真剣が故に全く余裕が無かった。
キスから先の関係に進みたいとさえ思いながら、それを望まれていなかったらと思うと怖くてそんな素振りを出すことさえ出来ない。毎日会いたいと思いながら、明日の予定を聞く事すら躊躇われて、何とか無理やり理由を作って会いに行った。
京が夜中に家を抜け出して会いに来てくれた時には飛び上がる程嬉しくて、その夜はドキドキして眠れなかったくせに、自分は気付いてくれるのを祈って遠くから見るだけ。自分から起こしたアクションにどういう反応をされるかが怖くて、少しでも「行き過ぎかも」と思うような事は言えなかったし、出来なくなっていた。
好きすぎて臆病になりすぎた僕に、幼馴染の茂は「大切なものなら自分から動かないと後悔する」と進言してくれたけれど、僕はわかったような振りで、その実何もわかってなかった。
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