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別々の日々
高校生活が始まり、僕らの距離はますます広がった。
共有する時間が減り、それを埋めるように学校の事や会えない時間の話をした。始めは楽しかったそれも、段々と知らない事が増えて行くにつれ、顔も知らない京の新しいクラスメイトや同じ学校に進学した武に嫉妬した。少しでも会えない時間を埋めようと放課後に時間を合わせて会い休日を一緒に過ごす。
会うと必ず京は手を握ったり頭を撫でたりしてさりげなく僕のどこかに触れた。ぎこちなかったキスにも慣れて、僕の隙を狙っては掠めるようなキスを繰り返し、時折は僕もわざと隙を作ってキスをねだった。
優しく触れる手や唇にふわふわと嬉しくなる一方でいつまで経ってもそれ以上に進まない関係に焦れていると、雑誌で偶然見かけた『キス友』という言葉に目が留まった。そんな所に答えなんてあるわけないと思いながらも調べずにはいられなくて検索する。
『キス友…キスをする友達。恋愛感情はない? 友達以上恋人未満?』
恋愛感情はない、の言葉にぎゅっと胸が冷える。手軽な恋人ごっこ。けれど、何となくそれが正解のような気もした。
僕は、京が好き。でも、京は僕が好き?
今更聞けない、今更言えない言葉が浮かぶ。
どうしてもっと早くに伝えなかったんだろう。どうしてキスの意味を確認しなかったんだろう。好きなだけでいっぱいで不安なんて何も無かった冬の初め、あの時ちゃんと言っておけばこんな不安なんて無かったのかな。
別々の時間が、毎日会えない事がこんなに不安になるなんて……。何日も同じ所をぐるぐる考えてようやく決意する。
今からでも勇気を出して聞こう。好きだと伝えよう。
そう決意したものの学校に慣れ始めた京はバイトをはじめ、バイト前の時間制限のある逢瀬は落ち着かず、バイト後で疲れていると思うと真剣な話を切り出すことも出来なくてタイミングを逃し続けた。あっという間に衣替えの季節になり、僕も京もそれぞれの制服が板について、会える事が当たり前の日常から会えない事が当たり前の日常に自然とシフトしていった。
だからといって寂しさがなくなるわけでもなく、僕は学校も生活も何だか味気なくて物足りない生活を送っていた。一方京の学校では実習が始まり、バイトもして充実しているように見えた。その上、本人からは聞いていないけれど学校の数少ない女子からも他校の女子からもモテているらしい。中学時代から人気はあったけれど、明るい髪色とわざと乱した服装は中学校では少し浮いていて、女子からは一部を除いて遠巻きにされていたのだけど、学校が変わり周りの環境が変わるとそれも全て魅力に映るようだ。
京の事を考えるとふわふわと幸せな気分に浸れていたのが、次第に重苦しく感じるようになり、連絡をとる間隔も3回が2回になり、2回が1回になって徐々に減っていった。
僕の重苦しい心と比例するように、遅い成長期が訪れた身体はキシキシと痛んで急激に身体が大きくなった。高校入学時には160センチ程だった身長も3カ月で5センチも伸びた。背が高くなると女の子に間違えられる事も徐々に減ってくる。身体の変化はますます僕を憂鬱にさせた。
女の子の代わりにならないのなら、僕に価値はあるんだろうか。
京はいつも僕を「可愛い」と言った。撫でやすい位置に頭があるのが良いとよく頭を撫でられた。僕が見上げた時にキスを掠めるのが好きだった。それは、女の子の代わりじゃない? 恋人ごっこが出来なければ僕は用済みなんだという強迫観念に囚われて息が出来なくなる。
そうなると、ますます連絡を取り辛くなって京に会うのが怖くなった。
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