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集団デート 1

 むしむしとした熱に中てられ、だれるばかりで鬱々と過ごす夏休み。入学当初は日に何度も送り合ったメッセージも週に一、二度になってしまった。内容も天気の事や互いの近況を訪ねるもので、やり取りも長く続かない。まるで親戚のおじさん相手のようだと力なく笑う。  僕はあからさまに落ち込んで、みんなの前では空元気でごまかしていた。特に茂には気を使わせていたと思う。よく遊びに誘ってくれたし、京の話題には触れなくなった。中学の時には関係が進展するように協力してくれて、その後もずっと見守ってくれたのに申し訳ないと思っても、頑張る気持ちも沸いてこない。 『アチーな! 夏バテしてない? 俺は今日も昼からスタンドのバイト。弘は何してる?』  送られてきたメッセージを何度も読み返す。暑いのにバイトなんて大変だね。ガソリンスタンドじゃ偶然装って行くことも出来ないな。京の姿を見たら少しは元気になるかも知れない。夏バテしてる、というより京不足、会いたい――。送れないメッセージを心で呟く。  露出の多い季節になって、京に会うのは恐怖に感じるようになってきた。僕がいくら服で誤魔化しても、本当の女の子の露出が高くなってしまったら追いつけない。ゆるやかにやってきていた変声期もコンプレックスに拍車をかけた。劣等感に押し潰されそうになりながら何でもない振りでやり過ごす。  心の中で卑屈になりすぎて僕はどんな人間だったかもわからなくなってくる。  夏休みが始まって数日、ジリジリと太陽に炙られる事に辟易し、茂と同じクラスで中学から一緒の茜真里、隣のクラスの紺野恵美の4人で大型室内型遊技場にやって来た。なかなか休日に女子と出かけるなんてことはないのだけど、今回は紺野さんが茂と仲良くなりたいからと茜に協力を頼まれた。屋外と打って変わった快適さに感激していると、僕らと同じに男女3人ずつで遊びに来ているグループに目が向く。そして、そこに一番会いたくて会いたくなかった人を見つけてドキンと心臓が跳ねた。  黒い細身ワークシャツにカーキの涼し気なワイドパンツ、そこにいる3人の男子の中では一番背が高く、細身に見えるけれど半袖から伸びる腕は筋肉質で引き締まった身体をしているのがわかる。無造作に見える長めの茶髪は所々金に近いメッシュでシャツの襟から覗く襟足は夏らしくスッキリしている。一見して高校1年生には思えないけれど、どこかやんちゃっぽさが覗く表情が絶妙で僕は一瞬で京に釘付けになった。  ぽかんと見とれていると僕らに気付いた武に声を掛けられた。 「あれ、茂と弘じゃん!」 「久しぶり。偶然だな」  茂と武が話し出し、それぞれの連れも「友達?」と寄ってくる。  武は京に比べれば至って普通の男子高校生らしく白いシャツに紺のハーフパンツ、髪も黒寄りの茶髪で、一緒にいる同級生だという男子1人もTシャツにジーンズだった。それに明るい髪色にお化粧もした随分大人っぽい女の子が3人。それぞれが胸元が開いた服、ホットパンツ、背中が大胆に空いたワンピースと自分の魅力を知りつくして雑誌から飛び出したような格好をしている。  一方の僕らと言えば、武はTシャツに紺のシャツを羽織り黒いボトム、茜はオーバーサイズのシャツに細身デニム、紺野さんはグレーっぽいカーキの可愛めのワンピース、僕はベージュの半袖パーカーに紺のボトムと高校生図鑑に載っていそうな平凡さだ。  茜たちと京たちの連れているおしゃれな女の子では合わないんじゃないかと思ったけれど杞憂するまでもなく盛り上がり、一緒に遊ぶ事になって僕らはわいわいと騒ぎながら移動する。  久しぶりに見る京がやけに大人っぽく感じられてドギマギしていると、半袖から伸びた腕同士が振れて京が話しかけてきた。 「俺らも久しぶりじゃん。元気だった?」 「元気だよ。京こそ毎日バイトでバテてない?」 「そんなんでバテるわけないだろ。ラインの返事遅いからさ、バテて調子悪いかと思って心配した」  直球で言われ心配されると頬に血が上るのを感じて口ごもる。京が触れた僕の腕が女の子のスラリとした華奢な腕と違い筋肉質なのが気にかかった。 「元気ならいいけどさ。弘、ちょっと見ないうちにまた背伸びてない?」 「そ…う? 自分じゃわかんないけど、ちょっと伸びたかも」  さらにコンプレックスの元を指摘されて動揺する。 「それにちょっと声も低くなった? 男になってきたって感じする」 「そうかな」 「いいじゃん! 女の子にもモテてるだろ?」  笑って言われ僕の笑顔が凍る。動揺に気付かれないように視線を下げ、ことさら明るく振る舞う。 「それは京だろ。今日はただの付き添い。目当ては茂だから」 「お、そうなんだ! 茂も念願のモテ期が来たか。じゃあ弘は俺と一緒だな。武が彼女欲しいってうるさくてさ、同クラの佐倉に友達2人紹介して貰ってんの。あ、男もう一人も同クラの多田ね。俺は人数合わせ要員」  むしろ本命は京じゃないの? と前置きし、それでも僕と変わりない真相を聞いてほっとする。過敏になりすぎてメッセージ一つ送るのにも逡巡していたのに京は以前と変わらない態度で、顔を見て話すだけで全ては杞憂で心配事なんて何もないように思えるのが不思議だった。  それから僕らはゲームで遊び、フードコートで腹を満たすと最後にカラオケに入った。京と一緒にいた市内の女子高の生徒だという2人は、案の定京に興味津々でゲームも食事も京の左右を固めている。さらに京が何かと僕に近付くので僕からも情報を聞き出そうと話しかけて来た。もやもやとした嫉妬を抑えて笑顔で接する事にうんざりしながら、空気を壊さないよう無理やり気持ちを持ち上げる。

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