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集団デート 3
カラオケボックスの中での会話は自然と頭を寄せ合い親密な雰囲気になりやすい。さらに薄暗い照明の下で周りの目を盗み仕掛けられる女の子のアタックは大胆になりがちで、ふつふつと沸き上がるイラつきを歌にぶつけて誤魔化す。
それは茂や武の目にも余るようで、彼らも自分の事そっち抜けにして京にアピールする女の子の気を逸らしたりそれとなく牽制するがそんな事どこ吹く風で気にする様子はない。茂達のそれは僕と京の関係を知っての事で僕を気遣ってしてくれているに違いない、のはわかるんだけど僕の方はそれどころじゃない。優しいと言えば聞こえは良いけれど、あからさまな好意を無下にすることもできずに優男ぶりを発揮する京にもイラつきが止まらない。なんとか態度に出さずに歌い終わるとトイレと断わって頭を冷やしに部屋を出る。
嫉妬、独占欲、劣等感……。恋にまつわるマイナス感情がてんこ盛りで今すぐ叫んで喚いて京を連れて帰りたい。
他の部屋から聞こえる楽し気な声も僕のイライラを増長させる。用を足し冷たい水で手を洗って怒りを無理やり抑え込んでため息を吐くと、なんだかバカらしくて切なくなってくる。今まであんなにあからさまで大胆に誘ってくる女の子なんていなくて、京が女の子相手にあんなにデレデレするんて知らなかった。きっと僕が知らないだけで今迄だって何度もあったに違いない。
『キス友』……。思い出したくない言葉を思い出す。
……僕の事も、女の子だと思ってたのかも知れない。本当にキスするだけの恋人ごっこだったのかな。自覚してなかっただけで多分そうなんだろうな。
そう思ったらあっという間に涙が沸き上がってくる。誤魔化すように顔を洗い鏡を見ると、中にはやや中世的ではあるけれど幼さが抜けて男になろうとしている普通の男子高校生の僕が泣きそうな情けない表情をしている。
普通に、男だもんなぁ……。
鏡を眺めて立ち尽くしていると鏡の隅に京を見つけて振り向く。
「ごめん。すぐ追いかけようと思ったんだけど……」
少し焦ったように京が言うのに、思わず心の声が漏れた。
「ごめん、て何のごめん? 何か謝らなきゃいけない事あるの?」
「千友ちゃんたちなかなか離してくれなくてさ、弘には悪いと思ったんだけど……」
「へぇ、もう名前で呼んでるんだね。仲良くなれて良かったじゃん」
イライラとしたまま続けると京が面食らって口ごもる。考えるより先に口から鋭い言葉が飛び出していく。今まで京の前ではずっと可愛くしてた。こんな風に言った事なかったな。
「怒ってる?」
恐る恐る様子を伺うように聞かれて、そんな事にもイラついた。一つ息を吐き、笑顔で返す。
「怒る事なんて何もない。京がモテるのに驚いただけ。彼女たち可愛いもんね。どっちかと付き合ったらいいんじゃない」
「何言ってんの?」
「あ、でも京はモテるから他にもいい女の子いるのかな」
「弘」
怒ったように名前を呼ばれてビクリと止まる。
「本気で言ってるの? 俺、弘の事可愛いって言ったよね? 弘は俺の事好きなんだと思ってたけど勘違い?」
矢次早に問われて心臓が縮み上がり、情けなくへらっと笑って誤魔化す。
「そ……ういう事も、あったけど……、今は、そうじゃない……」
「今は好きじゃないって事?」
「好き、じゃない……」
「じゃあ、俺の勘違いだったんだ」
「……そうだよ、勘違いだよ」
投げ捨てるように言うと、ぎゅっと肩を掴まれ抱き寄せられてキスされる。
「やめろよ!」
「何で? 今まで何度もしたじゃん」
「ヤダ! もうしない!」
「俺の事嫌いになったのかよ!?」
「もう好きじゃない!」
「俺は好きなのに!」
「そんなの、知らない!」
僕は叫ぶと京の腕を力一杯強引に振りほどいてトイレを飛び出した。そのままカラオケゾーンを抜け、出口付近でようやく止まる。心臓がバクバクしすぎて吐いてしまいそうだった。深く息を吸って吐き出すと、スマホを持っていることを確認してそのまま施設を出る。勝手に帰ったら心配されると思ったけれどもう戻る気にはなれなかった。
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