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再会 1

 もう一度だけ、頑張ってみようか。もう遅くても好きだと伝えようと考え始めて三日。機会は向こうからやってきた。 『  』  どう切り出せばいいのかわからないまま悩んで、無言のSNSメッセージを眺める。  一方的に京への連絡を絶った僕からどう言葉をかけたらいいのかがわからない、顔を見て話したいけれど二人きりで会うのも敷居が高い。だからといって事情を知っている茂や武に協力してもらうのも気が引けて、できれば自分の力でどうにかしたいと思っていたが、八方塞がりとばかりに頭を抱えているとスマホにSNSの着信が入った。 『急ですが、来週中学の同級会をします』という、一週間前なら断っていたはずの誘いに僕は飛びついた。  同級会なら──。  一週間はあっという間に過ぎて落ち着かないままその日がやってくる。弘は無駄に早起きをしてソワソワとしたまま何度も時計を見て半日を過ごした。外は朝には厚かった雲が晴れて青空なのに風が強く、落ち着かない天気に引っ張られて一層落ち着かなくなる。久しぶりに京に直接会うと思うと少し怖くてそれ以上に浮かれていたが、出掛ける時間が近づくにつれて不安の方が増してきた。  迎えに来た茂と一緒に、会場になっている中学近くのカラオケボックスに向かう。緊張して黙りがちな弘に「困ったら言え」とだけ言ってそっとしておいてくれる茂は、彼女が出来て共有する時間が減っても心強い兄貴分のままだ。 「しげるー!」  電車を降りると別の車両から下りてきた武に呼び止められる。茂と気安い挨拶を交わしてからまじまじと弘を見る。 「……もしかして、弘?」 「そうだよ、忘れられちゃった?」 「本当に弘? マジで? めっちゃデカくなってねぇ? 兄貴とかじゃなくて?」 「僕、兄弟いないし」  不躾に驚かれてジロジロ眺められ弘は居心地悪く小さくなる。納得しかねた顔の武に茂が笑って言った。 「弘はよく育ったって言っただろ? ほぼ毎日見てても時折驚く」 「だよな……。俺、弘に前会ったのって一年前くらい? もう別人レベルに違うわ。いや……育つもんだな……。俺の背、抜かれてねぇ?」 「見てやる、並んでみ」 「遠慮する!」 「何でだよ!」 「スタイル違くね? 俺、隣に並んだら悲しくね?」 「あー……」  残念そうな顔で茂が武を眺めると近くにいた女子中学生達が笑い、武が手を振る。 「頭は武のがデカいけど、弘のが背は高い」 「やっぱり! そんな気はした!! 知りたくなかった!」  二人を見比べた茂に言われ大袈裟に悲しがる武に、女子中学生が「頑張れ!」と声を掛けてすれ違う。無視するのも忍びなくて弘がペコリと頭を下げると、キャーと歓声を上げて小走りに駆けて行く。 「知ってる子?」 「いや、知らない子。見た? あの反応の違い。顔赤くしちゃってカッワイーの。イケメンはやっぱ得だよな。なのに背まで高くなるとかズルくね?」 「そんなに変わらないだろ」 「弘が『西高のダブル王子』って呼ばれてるの知ってるぞ」 「片方はもう卒業したけどな。もう一人は三年の松枝先輩だろ」  茂が後半は弘に話しかける。 「……何それ、僕知らないんだけど。何で武まで知ってるの?」 「友達に聞いたんだよ。弘は自分のことには鈍いもんなぁ。最初は西高の一年女子の間で言われてたみたいだけど、文化祭の実行委員に見た目も性格も王子様系男子が二人いるって、この辺の女子の間では結構知られてるみたいだぜ。俺の中二妹も知ってた」 「えぇ?」と納得できないまま茂に助けを求めると、茂が容赦なく言った。 「弘は無自覚タラシだから自覚ないんだろ。弘と松枝虹也でダブル王子だよ。さすがに弘でも松枝先輩が人気あるのはわかるだろ。王子は暗黙の不可侵条約なんだってさ。ちなみに二年女子で王子って呼んでる奴もいる」  言われてみれば虹也はすごくモテそうなのに女子から言い寄られる事は少なかった。無意識にゲイを感じているからかと思ったけれど、不可侵条約と言われると納得できる。  何も気付かなかった僕ってやっぱり鈍いのか、それとも女の子に興味がないせいだろうかと弘は少し落ち込んだ。 「イケメンにはイケメンが集まるよな。何で俺は引き立て役なんだよぉ。仲間だと思ってた茂にも彼女出来てるし、裏切者!」 「武は一緒にいたら楽しいタイプだから彼女いると思われちゃうんじゃない?」  大袈裟に悔しがる武に弘がフォローを入れると、ガバッと肩を組まれる。 「ひろむぅ、お前は解ってるな! 童貞仲間同士仲良くしようぜ!」 「そんな事言ってるから、いつまでも童貞なんだろ」 「うっわ、何その余裕……、引くわー」  すかさず茂が突っ込みぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いていると、通りがかりのおばあちゃんに「若い子は元気ねぇ」と声を掛けられた。 「ほら見ろ、武がうるさいから。今のも絶対聞かれてたぞ。恥ずかしい単語叫ぶなよ」 「はーい。……って、恥ずかしいのは俺じゃんかっ」  武は調子よく返事をして今度は少し大人しくするが、話は止まらない。 「茂の彼女って前一緒に遊んだ子? やっぱ女子は純情っぽいのがいいよねぇ。派手っぽい子はすぐ付き合えそうなんだけど、ちょっと引かねえ? 俺の方が遊ばれちゃいそうって言うか……」 「何でお前の言い方はそうやらしいんだ。それにすぐ付き合えそうとか言ってる割にはずっとフリーだろ」 「俺はピュアなんですぅ。京だってあんなにイケイケの子にモテてたのに、彼女は大人しめだもんな。あー、俺もカワイイ彼女欲しいなぁ。弘はさぁ、っと……」  しまった、という顔をして武が止まり弘は苦笑する。 「気使わないでよ」 『彼女がいるかも知れない。もう遅いかもしれない』というのは、気持ちの上では何度も確認している。だからか、彼女と聞いても心臓を撃ち抜かれるような衝撃はない。 「そう? じゃあ、弘の事も聞いていい?」  立ち直りの早い武の興味の矛先が弘に向かう。 「聞いてもいいけど何もないよ」 「モテてんのに?」  武が確認するように茂を見て、茂が肯定する。 「俺が知ってる限りはないな。不可侵条約は有効って事だ」 「なーんだ。でもその方が弘っぽいな。……あ、一部ではダブル王子でデキてるって話もありましたが、その辺は?」  にやっと笑って聞かれて弘は一瞬ヒヤっとするが、それに関しては想定内と、動揺しないように意識して否定した。 「残念、それもありません」 「そっかぁ。じゃあ、やっぱり童貞なんじゃん」  嬉しそうに言うと茂に背中をどつかれる。 「お前の頭はそれしかないのか!」 「健全なDKなんで!」

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