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告白のあと 2

 気が付くと寝ていた、そんな事はよくあることで──。  絶対に眠れないと思ったのに、目が覚めて寝ていた事に気付く。先に寝たのはどっちか分からないという事は、自分が先に寝たんだろう。床にカーペットだけでも、掛けてくれた布団とそっと寄り添うように寝ている弘のおかげで温かい。寝ている時でさえ触れそうで触れないその距離が、京の事になると控えめになってしまう弘を象徴しているようだった。  ──並ぶと余計に大きさを感じるな。  京は無意識に腕の中にすっぽり収まる陽菜と弘を比べる。華奢なのにどこを触ってもふにゃんと柔らかい身体、高く甘えた声、多分その全部が対照的だ。陽菜は大人しそうに見えるが弘よりよっぽど積極的で大胆だ。寄り添っている時はピタリと着いてくるし、愛する事にも愛される事にも素直で貪欲で、弘に感じるようなもどかしさはない。  京は無意識に陽菜と弘を比べていく。それは弘の最も恐れている事だけれど、当然京は気付かない。  ──陽菜とは全部が違う、だけど全然嫌じゃない。むしろ……。  昨日の弘の痴態を思い出す。気配と声だけだったけれど、視覚がないからこそ余計に掻き立てられるものがあった。ズクリ、と股間が主張して、寝起きに考える事じゃなかったと気付くがもう遅い。  外はまだ暗くて月明かりが見える。時計は見えないけれど、多分深夜。弘はまだ起きないだろうと、そのまま身体を伸ばしてテーブルの側にあるはずのティッシュを探る。  このままするのはまずいと頭の中で警報が鳴るけれど、それよりも昨日の弘のように隣でしてみたい欲求が勝った。  おかしな興奮。慣れた場所と手順、いつもと同じようでいていつもと違う、隣で眠る存在が罪悪感を掻き立てる。  今までも弘をおかずに抜いた事は何度もある。それは女の子を想像するのと然程変わらず、陽菜と童貞を捨てた後に弘だったらどうなんだろうと想像した事もある。けれど昨日の弘はその全部を上回っていた。その姿さえまだ見慣れないのに、低い声も熱い吐息も強烈に京を刺激した。  手を動かしながら、弘の声を、痴態を思い出す。  グンと力を増した自分自身がそのままの興奮を伝えて来る。寝返りを打って弘と向き合うと、暗闇の中に薄白い顔が浮かんで見える。  随分男らしくなったけれど、眠る顔は妙に幼くて弘を好きだった頃に意識が戻っていく。それと同時に罪悪感も増す。陽菜に置き換えればこの状況も許される気がして、京は意識して「はるな」と呟いた。  その呟きに弘の瞼がピクリと動いたが、京は快感を追うのに夢中で気付かない。そのまま弘の顔を見つめ、何度も触れた唇に「触れたい」と思う。厚ぼったくて色付きリップクリームを塗った様に紅い唇は柔らかくて、何度でも触れたくて、会う度にキスを繰り返した。  弘とはその先には進まなかったけれど、思うさま吸い上げてその中まで蹂躙したいとずっと思っていた。以前なら我慢できたかもしれない、けれど唇を合わせ口腔で得る快感を知ってしまった今は我慢できない。  唇を思う様犯したい、痺れるような快感を追いかけたいと、身体の中から欲望が沸き上がる。  ダメだと思ったけれど身体が勝手に動く。眠る弘に自分の唇を押し付け、柔らかく温かい感触を唇で挟み舌で舐める。  ゾクゾクするような快感が背筋を通り抜けて、出したい欲求が強まった。  もっと、口腔の中まで犯したら──、その欲求に抗えずに唇の間に舌を差し込む。舌は抵抗される事なく弘の口腔に誘い込まれる。  弘が起きたと思ったけれど、取り繕うよりも目の前の快感を優先する。舌を差し込み弘の舌先を絡めとる。合わせるだけだった唇もいつしか噛みつくように齧り付いている。  ぐいぐいと唇を押し付けて口腔の中の快感を探り出す。歯列をなぞり、上あごを舐める。 「ぅん……」  弘の喉奥から声が漏れる。苦し気なそれは快感の声の様でますます京を煽っている。京の自身を慰める動きは速く力強くなり、いつしか弘の腕は京の頭を支えている。  思う様柔らかな唇を犯し、口腔を蹂躙して頂点を極める。その瞬間、堪らずに弘の唇を軽く噛んだ。 「……んぅっ」  吐息が混じり、どちらのものかも分からない声が上がった。  ビクビクと震える自身から吐き出されるものを全てテッシュに受け止めると、途端に京の身体から力が抜けた。  弘は京が出し終わった事を感じ取ると、噛まれた唇を軽く離し、優しい、触れるだけのキスを繰り返す。京に思う様蹂躙された唇と舌はまだ痺れていて、触れるだけでゾクゾクと信じられない快感を引き出した。 「ん……」  もっと、と快感を追いかけて、おずおずと弘の舌が京の口腔に差し込まれ、柔らかく深く唇を合わせてくる。  まだ興奮の冷めきらない京は、ねだられて再び弘の口腔を犯した。 「んっ……ぁ……」  声にならない快感の声を互いの口腔で共有する。  京は身体の中に直接響く弘の声が堪らなく愛しく感じて、弘の身体をぐっと引き寄せ強く抱きしめる。 「ぁっ……あっ……」  それだけで弘の身体はビクビクと跳ねて快感の声を上げた。紅く厚ぼったい唇を嬲り、舌先を噛むと「ぅあっ」っと小さな叫びを上げて弘の身体が硬直する。 「んっ……っ……」  京は、ビクリと震えながら息を吐く弘がそれだけで頂点を極めた事を知る。唇を離して弘が落ち着くまで抱きしめる。  心臓が、飛び出そうな程ドキドキしていた。  ──触れてしまった、触れなけば良かった。陽菜を可愛いと思うのと同じに、弘を愛しいと思う。  触れてしまえば、タブーなんて簡単に飛び越えた。そうなる事は予測出来ていて、だからこそ弘に牽制をかけていたのに自分で破ってしまうなんて。後悔が重く圧し掛かるのに、腕の中の存在が全てを帳消しにする。  軽く身じろぐ弘の唇に軽くチュッチュとキスをして腕の中に抱き込むと、二人の鼓動が重なって一つになる。深く考える事を止めて、腕の中の温もりに酔う。  言葉を発したら全部が夢に消えてしまいそうで声を出す事が怖い。応えてやれないと理解っているのに、中途半端に期待させたはずだ。今が夢ならいいと思うのと同時に、夢なら醒めなければいいと思う。  ──ごめん。  京は声に出さずに謝る。それが弘と陽菜どちらか、或いは二人に対するものなのかは京自身も分からない。けれど、どちらも泣かしてしまうのは間違いなかった。

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