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合格通知
届いてしまった。
嬉しいはずの合格通知を前に、弘は怖気づいている。推薦での合格は既に学校にいる時間に知らされ、一通り先生や親しい友人には祝われた。当然殆どの生徒は受験すらもまだで、街のクリスマス一色な様子さえどこか遠い教室では合格した事も内緒にしている。
全く、ではないが最初からあまり不安はなかった。成績も内申の実績も十分足だろうと言われていたし、落ちても一般入試に備えての勉強はしていた。
誰にも言えないが、推薦入試を選んだ一番の理由は『合格が早くわかるから』だった。
ただ、推薦入試を受けた事は、京に伝えていない。
学校の推薦を受けられることが決まった時も、願書を出す時も、試験を受ける時も、言うか迷って伝えられずに嘘をついたまま今日まで来てしまった。大学を選ぶのも元々受験を考えていた所で、推薦入試も視野には入れていた。だけど一番の動機が『京とのセックス』になってからは、原動力にはなったけれど後ろめたさが付きまとった。
どう、伝えようか。
そもそも、伝えてもいいんだろうか、困るんじゃないだろうか? 今更、そんな事が浮かんでは消える。
京の就職は弘にはあまりなじみのない大型機械を取り扱う会社に決まっている。『就職と進学が決まるまで』その条件は満たされた。だけど、時間が経つほど考える『いいのかな?』。冷静になる時間を作って気持ちを抑えようというのが京の目的だったなら、確実に効果があった。弘は迷っている。
何も伝えられないまま数日が過ぎる。時間が経つほど迷いは増して、勢いは削がれる。
何か、きっかけが欲しい。誕生日が1カ月遅ければちょうど良かったのにと恨みがましいくカレンダーを見つめる。何度見ても今は12月で定番と言えばクリスマスだけど……。さすがに、クリスマスを理由に会いたいというのは気が引けてぐるぐる考え、結局シンプルに伝えるのが一番だと気付く。
『大学、合格した』
考えすぎて疲れ、最終的に一番簡潔なメッセージを送る。多分、今の時間は京は教習所だ。順調に行けば1月半ばまで通うらしい。教習所、それともバイトか……。目標にしていた大学受験も、合格してしまえば勉強する気にもなれず、友達も受験勉強で忙しい。突然ぽっかり空いてしまった穴に何もやる気になれず、ただゴロリと横になって過ごす。
考えすぎている時間が良くない事はわかる。今だって、クリスマスとか彼女と過ごすんだろうかとか、教習所の前後に会ってるんだろうかとか、そんな事ばかり考えてしまう。
何だかやけに一日が長い──。
『冬休み、泊まりに来ない?』
その夜、寝る前のいつもの時間、一通り祝われたり受験について教えてなかった言い訳をした。その後で誘ってもいいのかも、どう誘えばいいのかも解らずに、迷って、迷って、弘はメッセージを送った。
『いいよ。いつ?』
『29日から2日までなら親がいないから』
『わかった、じゃあ30日』
軽い調子でどんどんと決まっていく。京はただ泊まりに来るだけと思ってないよね? 親がいない事も伝えたし、そういう約束だし、大丈夫だよね? 俄然現実味を増して来た約束に、怖気づきながら期待している。
寝転がったままでも心臓はバクバクしていて、手は震えている。「だいじょうぶ」自分で自分を励まして布団を被る。
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