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3 大学編 7 冬‐① 姫はじめ ※
学園祭が終わり、火曜日からは通常授業に戻った。祭りの後の寂しさはあまり感じない。別のところで別の祭りをして盛り上がったからだと思う。勉強やアルバイトに追われるうちに日々は過ぎゆき、あっという間にコートとマフラーが手放せない季節になった。
大学は夏休みと春休みが長い分、冬休みは短い。クリスマスも普通に授業だったので、大学の予定に合わせて組んでいるバイトのシフトも当然に入っていた。飲食店や小売店でのバイトでないことだけが救いだ。寒空の下キラキラのイルミネーションに照らされて道行くカップルにケーキを売り付けるような仕事はさすがに心身に堪えるだろう。
当日は遊べなかったけど、一応事前にクリスマス気分を味わうことはできた。大学構内に大きなツリーが飾ってあったからだ。俺達の学費が電気代に……というのは置いといて、三階の窓に届こうかという巨大なツリーはなかなか見物で、毎日見ても飽きなかった。
大学近くの商店街もそれらしく彩られていた。街路樹に電球を巻き付けて光らせたりオーナメントを飾ったり、どの店もクリスマスに向けてセールを行っていた。これといって買うものもないのに、瑞季と二人で何度か足を運んで気分に浸った。
「でも、おれはいまだに理解できない」
炬燵にとっぷり潜って瑞季が言う。
「くりすますって何なんだ……」
「もー、その話何回目? クリスマスは先週終わったでしょ」
「基督教なんて、徳川よりも昔からずっと嫌われてきたはずなのに」
「宗教行事なんて名ばかりのただのお祭りだし……ってこれ言うのも何回目?」
今日は大晦日で、俺は瑞季のアパートに泊まりに来ている。大学は冬休みに入り、バイトもしばらく休みだから、年越しは一緒に過ごすことになった。
例年は、年末年始は家族と過ごす。夕飯に国産牛肉のすき焼きを食べ、年越しと共に天ぷら蕎麦を食べ、正月には母さんが奮発して出汁から作ったお雑煮と、お重に入ったお節を食べ、特におもしろくもない特番を見てだらだらし、昼食にも餅を食べ――みたいな過ごし方をするのが常だった。
だからこんな風に家族以外の誰かと年を越すのは――しかも恋人と二人きり――初めてだ。今年は初めてばかりの年だった。大学生になったからというのもあると思うが、何より瑞季がいてくれたからできたことばかりだ。初めて告白して、付き合って、デートに行って。エッチなこともしたし、ホテルにも行った。きっと来年もたくさんの初めてを――
「柊也ぁ、みかん」
「今考え事してたんだから、邪魔すんなよな」
「いいだろう、今ちょうど剥いてるんだから」
「これは自分用に剥いてたの」
「ちゃんと筋も剥いて」
でも瑞季に甘えられると甘やかしたくなってしまう。悪い癖だ。筋を全部取ってつるつるにしたやつを、丸く開いた口に放ってやった。おいしそうにもぐもぐ食べている。みかんを剥く度に要求されているけど断れない。だってかわいいんだもん。
炬燵の魔力だろうか、お互い完全にリラックスモードだ。気分がのんびり延び切って、ついあくびが出てしまう。実際、食事も風呂も終えているから後はもう寝るだけだ。適当に歌番組を流してはいるけど、要するにとっても暇なのだ。
「柊也ぁ、みかん」
「またぁ? さっき食ったろ。ていうか、さっきのが最後の一個だし」
「まだある」
「これは俺が食うの!」
そう言って最後の一房を頬張ったら、瑞季は膨れっ面をして横になってしまった。炬燵の中で瑞季の足先が俺の膝に届く。じゃれつくみたいに軽く蹴ってくる。
「なんだよ、お腹空いたの? 余った天ぷらあっためる?」
「ううん。お前の剥いたみかんがいい」
「だってもうみかんないし」
膝だけでなく、股間まで突っついてくる。顔が見えず、意図してやっているのかどうかわからない。だんだんくすぐったくなってきたので、その足首を捕まえて悪戯をやめさせた。炬燵の外に出ていた俺の手は冷え切っていたから、瑞季は嫌がって足を引っ込めようとする。
「ちょっ、つめた」
「お前のためにみかん剥いてたから、こんなに冷たくなっちゃったんだぜ? もっとあっためてよ」
両手で掴んで暖を取るついでに、足裏をこちょこちょくすぐってやる。
「ひゃっ!? あ、あ、やだやだ、や、あ、あは、はぁあんっ、」
瑞季は笑い声だか喘ぎ声だかわからない声を上げ、炬燵の中でめちゃくちゃに暴れる。テーブルがガタガタと振動する。
「くすぐったい?」
「あっ、あは、くすぐった、んや、あっ、はぁん、もうや、やめ」
「お前は足の裏まですべすべでかわいいねぇ」
「あはっ、なに言っ、んぁあっ、あも、は、はなし、はなしてぇ、」
いよいよ苦しそうに喘ぐので解放してやると途端に静かになる。瑞季はぐったりして、ぜえぜえと肩で息をする。
「っも、ばかぁ……なに、きゅうに……」
疑問には答えず、俺はまた瑞季の足首を掴んで、今度は思い切りこちら側へ引き寄せた。瑞季は頭からお尻までとっぷりと炬燵に潜る姿勢になる。
「な、今度はなにを……?」
「勃起した」
「なに?」
声が届きづらいのか。俺は炬燵布団を捲り上げ、同じことを繰り返し言った。
「す、するのか?」
「お前もそのつもりだったろ?」
「で、でも、いつもは布団で……」
ごちゃごちゃ喋っている隙に内腿へと手を侵入させる。瑞季は今日も、豪華な刺繍が入った花嫁衣裳さながらの純白の寝巻を着ているのだが、残念ながら今は見えない。手探りのまま裾をはだけて際どいところを辿っていく。
「んん、や、やだ、こんな」
「炬燵でも布団でも一緒でしょ」
「そ、それにお前、テレビ見るって」
「いやいいよ。見たいのもう終わったし」
雑音になるといけないのでテレビを消す。これでもう、聞こえるものは瑞季の声だけだ。
「あっ、まっ、ゆび……」
「うん、入ってるよ」
「ひぁ、う、そこ、や……」
「イイの間違いだろ」
棚に常備してあるローションを取りに行くのが面倒だったので唾液で代用しているが、案外大丈夫そうだ。中の性感帯がぷっくり膨らんで、そこを軽く叩くと自ずから濡れてくる気がする。瑞季がじたばた暴れるので、両足とも脇に挟んで固定してしまう。
「しゅう、しゅ、あつ、んっ、あつい」
元々瑞季が座っていた場所以外の炬燵布団を捲って、テーブルの上に持ち上げる。これでは炬燵が炬燵として機能しない。俺は寒い。なのに瑞季はまだ暑いと言う。
「んぅう、あつい……」
「暑いだけ?」
「ふぁ、あん、きもち、けどぉ……んぁっ! だからそこ、だめって」
「でもすっごい吸い付いてくるよ。ここがいいんだろ?」
普段よりもじっくり時間をかけて前立腺を責めた。軽く叩くだけでなく強めに擦ったり、二本の指で挟んで転がしたりする。瑞季は切羽詰まった声で啼く。
「きもちぃっ、あ、きもち、からぁ、もうやめっ」
「んー、もうちょっと」
「あぁも、だめ、なんかくる、くる、やだ、や、くるッ、きちゃう゛ッ――!」
刹那、静寂が全てを包んだ。両脇に捕らえていた瑞季の太腿が、ビクンビクンと大きく跳ねる。空を蹴っていた爪先が丸まって細かく震える。中がぎゅうぅっと締まって俺の指を吸い上げる。かと思うとビクビクッと収縮して俺の指を噛みしめる。
静寂の後、瑞季の強張っていた全身はくたりと弛緩し、しばらくは不規則に痙攣した。指を抜くだけで声を上げて悶える。忙しなく息をする音が響く。
一体何が起きたんだろう。瑞季を炬燵から引っ張り出して確認する。顔も体も真っ赤に火照り、皮膚は汗で湿っている。秘部は透明な液で濡れそぼっていたが、いまだ勃ち上がって天を向いている。後ろの蕾は、こちらは概ね予想通りだが、ヒクヒクと物欲しそうに口を開けたり閉じたりしている。
「大丈夫?」
「しゅ、しゅうやぁ……」
若干涙声だ。瑞季は起き上がろうとするが、腹筋に力が入らないらしくできない。俺が手を引いて起き上がらせ、膝に座らせた。抱きしめて、よしよしと背中を撫でる。
「ねぇ、今のってさ」
「……わ、わかんない」
「イッた?」
「い、いったと思ったけど……」
「何も出てないもんなぁ」
起立したままのそれを握ると、瑞季は大袈裟なほどに嫌がって腰を引く。
「ごめん」
「感じすぎるから……」
「そのわりに尻押し付けてくるじゃん」
「そ、れは……」
瑞季は恥ずかしそうに目を伏せるが、腰を揺らすのは止められないらしかった。俺の首に腕を回してしがみつき、尻の谷間を股間に擦り付けてくる。
「そんなにしたら俺のパジャマ汚れちゃう」
「だ、って、なかが……柊也ぁ」
「甘えた声出してもだめ。何してほしいかちゃんと言って」
瑞季はしばし逡巡し、顔を隠す。
「な、なかにほしい、です……」
突然の敬語に驚き、俺は一瞬フリーズした。瑞季はもう待ち切れないって風に尻を擦り付けて急かす。ただでさえ反応しているそこがガチガチに張り詰める。
「柊也ぁ、はやく……」
「わか、わかったからちょ、待って、ゴム取ってこないと」
「いらない」
立ち上がろうとするが阻まれ、パジャマごと下着を脱がされる。瑞季がいつになく前のめりだ。興奮する反面、俺は焦る。このままだと生セックスになってしまう。でもここで抵抗できるほど理性が勝っているわけでもない。
瑞季が俺の肩に手を置き、対面座位の体勢で腰を落とす。我慢汁でぬるぬるに濡れた亀頭が、ゆっくりゆっくり呑み込まれていく。
「ふぁ、あ、はいって……」
「おま、自分で挿れてるくせに、っく」
「あう、ぅう、は、はいっちゃう……」
俺はごくりと生唾を飲んだ。これは、あまりにも気持ちよすぎる……! かっこ悪いのであまり面には出さないけど、ゴムをしてするのとは桁違いに気持ちいい。歯を食い縛っていないと声が漏れる。うっかり気を抜いたら腰まで抜けてしまいそう。
「あつい……」
二人の声が重なった。
「しゅ、やの、ぁ、あつい」
「うん。瑞季の中も熱い」
普段は感じにくい瑞季の体温を直に感じる。熱だけじゃない。中の肉厚さ、濃厚さ、絡み付く肉襞の感触等、瑞季の全てがダイレクトに伝わってくる。薄皮一枚取っ払っただけでこんなにも近くに感じるなんて。本当の意味で一つになれたと実感する。
「きもちいい……」
瑞季が俺の耳元でうっとりと呟いた。じっとしているだけでもじんわりとした甘い痺れが巡る。繋がった場所からどんどん溶け、そのうち全部が溶けて混ざり合ってしまいそうだった。
キスをすると中が締まってたまらない。俺が動けない分、瑞季が腰をくねらせる。決して激しい動きではなくゆりかごのように揺れるだけだが、緩やかな快感がじわじわと迫ってくる。
「しゅう……しゅ、あつい……」
「うん」
「あ、つい……ぜんぶ、あつい」
暑い暑いと繰り返すくせに、俺にしがみつく腕を解こうとはしない。炬燵に当たってしているせいか、俺も暑くて暑くて敵わない。触れ合う肌は汗でベタつくし、脳はぐつぐつ煮え滾っている。だけどどうしてもこの温もりを手放せない。
「……ベランダ、出てみる?」
我ながら馬鹿な提案をしたものだが、陶酔状態の瑞季は悩む素振りさえ見せずにこくりとうなずいた。
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