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怒ってます?
いやぁ、間が悪かった。
と、いうか俺も熱くなりすぎて周りが見えていなかった。
「あ、あのよクリス。この前の事だが・・・」
「ハッキリと言え。その言い方では分からない」
深刻だな。深刻なんだろ?
もしかして、あの時の騒ぎでお前、恋人に振られたのか?
「・・・すまん。俺にも、止めなかった責任があるからな」
あの後、慌ててシェスを追いかけたクリスは今まで見た事もないような顔をして帰って来た。
そして一言。
「おいパリス。どういう事か俺に分かるように説明しろ。誤魔化す事なく全てを吐け」
周りの空気を凍てつかせる勢いがありそうな程の低音ボイス。クリスが本気で怒っていたのは明確だった。
俺クリスが本気で怒る所を初めて見たぞ。
俺でさえも三歩ほど後退したんだ。
パリスなんて動かず口をパクパクさせていやがった。
・・・ちくしょう!可愛い!!
パリスの癖に!!
結果。クリスの迫力に押されて隣の部屋に聞き耳を立てた事を白状させられ、俺まで怒りの矛先を向けられ今に到る。
「・・・けどよ、相手は誰だか知らなかったぞ?パリスはシェスとは殆ど関わり合いがなかったから・・・つい口に出しちまったんだな?シェスとは配属も別だしな?」
「・・・俺が、あそこまで関係を続かせるのにどれだけ苦労したと思っている。・・・許さない」
こ、怖ぇ。
クリス本気だな?
もしや、修正不可か?
「・・・別れたいと言われた」
「え!?こんな事で?」
そりゃ、いくらなんでも勝手じゃねぇか?
そもそもシェスの奴無類の女好きだろ?
なんで男のお前と付き合ったんだよ?好きだからじゃねぇのかよ。
「色々と複雑な事情が重なって付き合うことになったが、シェスは・・・男が好きなわけじゃないからな。それを誤魔化しながら今日まで引き伸ばしていた」
げぇ!?
な、なんだろうな?俺も他人事とは思えねぇ話だ。
今まさに、俺が抱えている問題と類似している。
パリス、別に俺の事好きじゃねぇんだよな、きっと。
「・・・修正不可能なのか?」
「分からない。シェスが何に対して怒っているのかが、分からないんだ」
ん?なんだそりゃ。
その、俺達に知られた事怒ってんじゃねぇの?
「・・・ジェイダ。俺はデリカシーがない人間だと思うか?」
「は?お前が?・・・いや、そんなこたぁないだろ?どちらかと言えば、それはパリスの発言が・・・」
待てよ?
確かに濡れ場を聞かれて狼狽たのは分かるけど、なんでクリスに怒るんだ?クリスお前・・・。
「・・・お前、無理矢理してたのか?」
「最後まではしてないぞ?我慢はした」
あはははは!そうかよ?
俺はしちまったよ。どうしてくれる!
「本気で抵抗しなかったから、大丈夫だろうと・・・しかし、どうも言えなかっただけで、嫌だったのかも知れない」
「今更か?散々そういう事して来たんじゃねぇのかよ?」
「今考えれば確かに一方的だった。シェスからは一度も誘われた事、なかったからな」
「・・・・・・あー・・・・」
つーか。だったらなんでお前ら、付き合ったんだよ?
最初から説明してくれ。
そして俺は、今他人の色恋沙汰に首突っ込んでる余裕ねぇんだけどよ?
遠くでパリスがチラチラこっち見てんだよ。
お前気付いてて、無視してんな?
「それで?お前達こそいつの間に恋仲に?お前何を考えているんだ?」
「・・・いや、詳しく話すとまた、ややこしくなりそうだから、かいつまんで言うとだな?雰囲気に流されてやっちまったんだ俺達」
「・・・・・・・・・・・は?」
そんなに驚くか?
表立って公表しないだけで、そんな奴等結構いるだろ?
立場上俺が知る機会が多いだけだが。
俺らの騎士団長様の恋人も相手男だぞ?
まぁ、俺が男を相手にする日が来るとは、思ってなかったが。
「まさか、ジェイダにまで先を越されるとは」
「クリスお前、本当は少しも反省してねぇな?俺は今少しだけシェスの気持ちが理解出来たぞ」
とか言いつつ俺も人の事言えねぇけどよ?
でも、パリスの奴目を離したら何処かに行っちまいそうな気がするんだよ。俺はそれが、どうしようもなく嫌なんだ。
「お前、魔物の討伐隊メンバーになってたよな?しばらくは会えなくなる。その事、ちゃんとシェスに話したか?」
「・・・言っていない。言う前にこんな事になった。あれから、完全に俺はシェスに避けられている」
「・・・・何処かで見てきたような状況だな?」
そうだよ。正に俺だ!
あの日の夜からずっとパリスに避けられ逃げられて・・・俺は本気で参っている。こちらの話をまともに聞こうとしねぇし!
「最初の頃は、シェスはもっと楽しそうだった。俺といる事を受け入れてくれていたと思う」
「・・・手を出したのがいけなかったと?」
「そうだな。もっと、シェスの気持ちを汲むべきだったかも知れない。勝手に判断したりせずに」
****
クリスの言葉を聞いて、俺もそうだと気が付いた。
あの夜。同じ男なのだからと、多少手荒かったのは認める。
パリスにしたような事を、異性に出来るかと言えば勿論出来ないと答える。完全に嫌われるからな。
「ジェイダ」
お前あれだけ俺から逃げ回ってたのに、クリスの事になると近づいてくるんだな?
・・・何やってんだ俺は。
「クリスの様子どうでした?もしかして、状況が悪化して?」
「んーまぁそうだな。別れ話を持ち出されたらしいぞ?」
「あちゃ〜・・・」
頭抱えてるけど、それはどっちなんだ?
「あのよ?パリスも本当は嫌だったのか?」
「は?」
「あの時、俺に無理矢理されたと思ってんのか?」
「また!・・・だから今はそれどころじゃ・・・」
頼むからコレは真剣に答えて欲しい。
今ならまだ、なんとか間に合うかも知れない。
「・・・・ジェイ・・・」
「俺に触れられるのは、そんなに嫌だったか?」
ならハッキリ言えよ。
俺が納得出来る様にな。
「何言ってるんです?あんな事になって・・・しょうがなく責任を取ろうとしてるのは、ジェイダでしょう?そういうのはいいですってば」
は?コイツ、何言ってんだ?
「何度も言いますが、あの日の事はお互い様です。ですから、僕の事は負い目に感じないで下さい。僕も忘れます」
「・・・ちょっと待て。なんか、話が噛み合ってなくねぇか?」
「何がです?そもそも、僕は男ですよ?一度寝たくらいで責任なんてとらなくても・・・」
あーーーーーーーーー!?
嘘だろ?俺てっきり。いやいや、でもよ?
「いや、俺パリスの事そういう意味で、好きなんだが?」
「・・・・・・はい?」
「お前、俺より先に気付いたから、あんな事して来たんじゃなかったのか?」
そうか。そうだな・・・クリスよぉ?
・・・お前も何か、根本的に見落としてんじゃなねぇか!?
俺は今、自分自身の思い込みに、ここ最近ないくらいの衝撃を受けたぜ?それで、目の前で固まってコチラを見てるパリスを思いっきり抱き締めたい!!
絶対パリス本人には言えねぇがな!!
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