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なに揉めてるの?

なんだ?見覚えのある顔がトボトボ私の薬術室を横切っている。 こんな宮廷の離れまでわざわざ来る奴は仕事をサボりたいか、私に会いに来るテオぐらいだろう。 「どうしたんだ?冴えない顔をして」 「あ、ユーリ・・・テオは居ないのか?」 「テオは今日は来ないぞ?なんだ、テオを探しにきたのか?」 「いや、そういう訳じゃ。俺は今途轍もなく頭を冷やしたい気分なだけで」 コレは私が話を聞かなければならない流れか? 気が乗らないな。私は基本他人と話すのは苦手なんだ。 「・・・それで?ここに居たいのか?中でお茶でも」 「え?いいのか?悪いな?お邪魔します」 おい。 やはり話を聞いて欲しかったんだな? 私にという事は、クリス関係だな?まぁ、アイツには借りがあるから、話ぐらい聞いてやってもいいが。 いつもテオに出してやるハーブティーでいいか。 蜂蜜も混ぜてやろう。 「それで?今度は何があったんだ?」 「実はさ、ちょっと腹が立ってクリスに別れるって言ったんだけどさ」 ガタタッ ・・・なんだそれは、痴話喧嘩か?くだらない。 「最初から話せ。そこだけでは、話の展開についていけない」 「あ、そうか。何処から話したからいいんだろうな?」 「最初からだ。そもそもお前はいつクリスを好きになったんだ?接点は殆どなかったんだろう?」 「そこからかぁ〜・・・」 クリスに聞いた時からずっと気にはなっていた。 シェスから告白して付き合ったと聞いていたが、様子を見ていても、どうもそんな感じに見えない。 どちらかといえば、クリスが一方的に執着している様に見える。 「それがさ・・・」 事情を詳しく聞き出してみれば・・・。 私も決して人の事を責められる立場ではないが。 シェス。お前それは中々酷い。 「・・・それは、明らかにお前に非があるな?それで?やっとクリスに告白は嘘だったと告げたら逆に告白されて、しかも受け入れたと?馬鹿なのか?」 「ううう・・・分かってる。分かってるんだけどさ?この前もついカッとなっちまって・・・だって、クリスの同僚にあんな恥ずかしい場面知られてたと思ったらさ・・・皆で面白おかしく笑い話にされてたんじゃねぇかとか、思っちまって。冷静に考えたらクリスがそんな事する訳ねぇんだけど」 なら直ぐ取り消して来ればいいだろう?何を躊躇ってるんだシェスは。優柔不断すぎる。 「クリス、俺の事もう嫌いになったんじゃねぇかな?」 「は?」 何言ってるんだ? アレだけお前に尽くして挙句騙されてたと知っても諦めなかった奴が、そんな事で嫌いになるとは思えないが? 「俺がもう別れるって吐き捨てた時、クリス俺が見た事ない様な表情で俺を見たんだ。それで、俺何も言えなくなっちまって・・・それに・・・」 もしかしたら、テオもこんな風に私の事を考えてくれたのだろうか。だが、第三者から見てハッキリ言える事がある。 「それに、俺。クリスをちゃんと同じ様に好きになれる自信がねぇ」 「そうか?私から見て、お前はとっくにクリスに惚れている様にしか見えないが?」 「は?何言ってるんだ・・・そんなの・・・」 「じゃあお前は、明日クリスにお前以外の恋人が出来てクリスがお前にした様な事をしても平気なんだな?」 「え?それは嫌だ」 コイツ・・・なんて簡単なんだ。 今サラリと答えたな?本人も自分の答えに驚いてるな? あ、コイツ馬鹿なのか? もしかして、自分の本当の気持ちに気付いてなかったのか? 「・・・え?俺何言ってんの?いやいやいや・・・」 そして現実逃避を始めたな?しょうがない。 「もう直ぐ西の森の調査の為の魔物討伐隊の一団にクリスも加わる予定だろう?あそこまでは行き帰りでかなり距離があるし、結構危険だと聞いている。暫く会えなくなるだろう。その前に仲直りしておけ。後悔しない様にな?」 「は?討伐隊?そんなの俺聞いてねぇぞ?」 「元々騎士は同行する予定はなかったみたいだが、今回は・・・視察も兼ねて殿下も視察へ行くらしい。その護衛としてだろう」 顔色が変わったな? そうだ。下らない事で喧嘩などして後々後悔する様な事はやめておけ。ただでさえ同性同士で障害が多いというのに。 「必ず無事で帰ってくる保証もないんだぞ?後悔だけは、するなよ」 ただ待つ事しか出来ない私は何度もそれを経験しているからな?テオが任務で宮廷を離れるたび、私の心は不安と恐怖に支配された。もう二度とテオに会えないのではないかと。 「ううう〜!俺は・・・俺は・・・」 「シェス?」 「俺はただ・・・最後の砦だけは守りたい!じゃなきゃ俺の矜持が保たれない!!」 あ、成る程。 そこだけなんだな?そこを越えられなくてもだもだしているのか。クリス、中途半端に手加減するから、ややこしくなったみたいだぞ? 「そうか。その事で私から言える事は一つだけだな」 「なんですか!!ユーリさん!!」 コイツ単純そうだから一押ししてやればいいだろう。 「お前の矜持など、クリスと付き合った時点で意味を成していない。そもそもコレはお前から言い出して始まったのだからな?後な、慣れると、癖になるぞ?」 「は?何が?」 あのテオでさえ我慢出来ずに私を欲しがるくらいには、気持ちいいらしいからな? 「お前が無駄に守っている一線を超えてしまえば今ある悩みなど意味がなくなる、と言っている。怖がってないで超えてみろ。とんでもなく、気持ちいいぞ」 ゴクリと喉が鳴ったが? コレで良い方向に動けばいいが・・・まぁ後は、自分達でなんとかしてくれ。私も暇ではないんだ。

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