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第4話

 日々の暮らしに精いっぱいの子供が、甘いお菓子をもらえる機会はそうないだろう。  さっきの子供たちのぱっと日が射したように明るくなった笑顔を思いだす。もしかしたら、金をもらうよりうれしいことだったのかもしれない。 「うん、お金あげるより絶対いいと思います」  知り合いのジャーナリストって人も、そう思ったんだろう。  子供に物乞いをさせるのは大人の都合であって、子供には責任がないことだ。わかっていても行動に移すのはなかなか難しい。  祐樹はためらいなく、子供たちに接していた。とくに施しをするという態度でもなく、ただ単純に手元にある小銭の分だけを分けてあげる気楽さで。  その潔さがかっこいいと思った。  それ以来、孝弘も子供には飴やチョコが手元にあればあげるようにしている。 「へえ、そういうことする人なんだね」  白族(バイズー)の小物入れを数えて棚に出して、レオンはにこっと笑いかける。  レオンが祐樹に直接会ったのは、香港のホテルで一緒に酒を飲んだ1回きり、ほんの3時間ほどだ。  それ以前のレオンが知っていたのは、ぞぞむから聞いた話と孝弘がふられて落ち込んだ姿だけだったので、孝弘をここまで落ち込ませるなんてどんな人なのかと実はかなり興味は持っていた。  実際に会った祐樹はぞぞむから聞いていたとおり、上品そうなきれいな顔をしていた。繊細な容姿でやわらかな微笑みを浮かべると人目を惹きつける華やかさがあった。  話してみたら意外と気さくというか大らかな性格だった。男四人兄弟だからなのか顔に似合わず気が強いようで、日本人らしくなく言いたいことはずばずば言う。  いや、そうでなければ政治的にも経済的にも混乱真っ只中の中国駐在員などやっていられないだろう。でも日本人らしい細やかな配慮も会話の端々に見せて、なるほどとレオンは思ったのだ。  孝弘が惚れた人って、こういう人だったのかと。  そして同時に安心したのだ。こういう人がそばにいるなら、この先の大型プロジェクトも大丈夫だろうなと。 「ほかには、どこが好き?」  さらに突っ込んでみると、孝弘が微妙に嫌な顔をする。  どうやら照れくさいらしい。 「もういいじゃん」 「えー、一個しか聞いてないのに」 「お前、俺が嫌がるのわかってて、楽しんでるだろ」  ふふっとレオンが堪えきれずに笑うと、孝弘からパンチが飛んできた。本気ではないそれを手のひらで受け止めながら声を上げて笑った。 「暴力反対ー」 「バカ、こんなの暴力のうちに入るかよ」  あ、そういえば祐樹に助けられたこともあったな。そのレオンの声で思い出した。  祐樹と一緒に市内に遊びに行ったときのことだった。

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