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なまえをつけてよんでみよう。2/4
目の前のセクサロイドは中で忙しく動き続けるが、俺の脳内はフリーズして動けないまま。
やがて………その閉じていたセクサロイドの目が開かれる。
最初、頼りなげな小動物のようにゆらゆらと揺れていた焦点が俺を捉える。
「…………………」
「…………………」
互いに寝転んで見つめ合った姿勢のまま一瞬だけ静かな空気が流れる。
「………名前、」
「え?」
「あなたの名前、なんだっけ?」
先に口を開いたのはセクサロイドの方で、少し微笑むようにして尋ねてきた。
野太い声を想像してたけど、思っていた以上に柔らかい声で少し驚く。
「なんだっけ、って………俺ら初対め」
「ごめんね、忘れちゃったの」
「あ、と………」
寝転がってはいるものの少し小首を傾げた風につぶやく相手に俺は戸惑う。
やっべぇ、なんか仕草にちょっとときめくんだけど。
「まつ………りょ、遼だけど………」
「まつ? りょ………?」
「あ、ごめん、………遼、だよ」
「遼、ちゃん?」
「あ………はい」
いきなりのちゃん付けがすでに呼びかけに聞こえ、思わず俺は素直に返事をしてしまった。
ピーーー、カシャ、と動く音が聞こえる。
「ねぇ遼ちゃん、いつもみたいに僕の名前、呼んで?」
そういって少し恥ずかしそうに目を細めて聞き入るような仕草にますます戸惑う。
寝転んでいるせいか今、俺の目の前で見えるのは顔と首周りだけで、やや中性的な声にデフォルトでついていた長めのショートウィッグ(色:ハニーブラウン)も相まって、少し肩幅がしっかりしたボーイッシュな女の子(まさに俺好みの)にしか見えず錯乱してしまいそうだ。
「あ………の………」
「ねぇ早く、遼ちゃん」
「、………ミオ………」
「………うれしい」
ピーー、カシャという音のあと、ミオと呼ばれたソイツは嬉しそうに笑って俺の上に乗っかってきた。
「わぁっ! ま、待った! 待った!!」
「なに遼ちゃん?」
馬乗りされると、やはりふくらみのない胸はどうしたって男にしか見えない。
しかも、「男の子タイプ」ということは………俺はゾクリ、とする。
「まさかっ、俺がヤラれるの?」
「え? 僕、忘れちゃった………昨日の夜はどうだったっけ?」
「………………」
「遼ちゃんが僕を抱いてくれた? それとも遼ちゃんが僕に抱かれたっけ?」
………あ、きっとさっきの名前と同様、これも初期設定なのかな………なんとなく悟る。
「………俺が抱いたんじゃないかな」
「ホントに?」
「うん、多分」
「多分だなんて言わないで、抱いた? 抱かれた?」
男を抱く趣味も抱かれる趣味も過去はもちろん、これからだってないつもりで曖昧に答えるけど、そこは初期設定、ましてやセクサロイド相手にそんなことも言ってられない状況。
「あ、それともいつもは両方で、昨日は僕が抱か」
「いや違うっ! 抱いてる! 俺がいつも抱いてやってるよ!」
抱くか抱かれるかを選べといわれたら抱く方がまだマシに決まっている。
妥当案にも聞こえる「両方」という言葉でもここで妥協を許してはマズイだろう………俺は瞬時に思い、やや叫ぶように答える。
「………うん、思い出したよ」
「そ、そう」
「ごめんね? もう忘れないから」
───忘れないから。
それはセクサロイドとしての自分の役割を「覚えた」という意味であり、そして、もう戻れないところまで来てしまったということだということを、俺も覚えなきゃいけないのであった。
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