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なまえをつけてよんでみよう。3/4
『怖いもの知らずなところもありつつ、内心はけっこう恥ずかしがり屋。スポーティーでありながら少し天然で擬音で言うとふわふわした感じ。どちらかというと甘えてくる方………』
注文の際に簡単な性格を、の項目に書いた自分の文章を思い出し俺は溜息をつく。
「遼ちゃん、溜息ついてどうしたの?」
未だ馬乗りのままの男・ミオが首を傾げる。
「………いや、なんでもない」
とはいえ、男のクセにやけに雰囲気が男らしくないのはその注文段階での性格設定のせい、というよりおかげかも、と妙に納得する。
「と、とりあえずさ………服着なよ」
いつまでも馬乗りにされてそこから何がどうなるかわかんねーし、ミオの目を見ながらひとまず俺は傍らに転がった箱を指差す。
「服?」
「うん、その箱に一緒に入ってるからその中の服を着、………あ!」
箱に入っている自分がオプションで頼んだ服は、セーラー服とチア服と、ピンクのうさちゃんコスチュームセットしかない。
「わあぁっ! そっちじゃなくてえっと、………?」
やっと俺から離れ箱を探り出すミオを慌てて止めようとして、言葉が止まる。
「オマエ………これ………」
その右手首を見て、床にこぼれていたコーヒーにやっと気付く。
「どうしたの? 遼ちゃん」
「いや、ちょ、ちょっと待ってろ、」
「え? やだ遼ちゃんどこ行くのっ?」
洗面所に向かう俺を、ミオは不安げに追いかけてくる。
洗面所についた俺は慌ててタオルを濡らして絞り、ミオの手首を強めに拭ってみる。
「やっべ、取れねぇ………」
ミオの右手首、それと手の甲に少し、倒れた時に一緒にこぼれたコーヒーがついて染み込んでしまい、すでに乾いて取れなくなっていたのだ。
さながら、生まれつきの痣のように。
「ねぇ、なに遼ちゃん?」
「オマエ、風呂入れるだろ?」
「え? うん」
「お湯使ってタオルでその手首擦ってこい、早く!」
「えっ? 遼ちゃんはどこ行くの?」
「それどころじゃっ、いや、あとから行くから」
怒鳴りつけようとしたけど、あまりにも淋しそうに見つめられたからそれ以上強い言葉は言えず、俺は一人リビングに戻って取説を開く。
『色の強い服は長時間着せておくと色移りする可能性があります。』
『入浴も可ですが濃い色の付いた入浴剤は絶対に入れないで下さい。色移りする可能性があります。』
『万一、色移りした際は中性タイプの洗剤、もしくは弱酸性タイプのボディソープを薄めたものを使用し、タオルなどで優しく拭いてあげて下さい。』
『化学洗剤、漂白剤などは絶対に使用しないで下さい。』
『擦りすぎは素肌を傷める原因になります。』
さすがにコーヒーなどの類のことは書かれてないけど、内容からして間違いなく完全にボディに色移りさせてしてしまったようだ。
どうしよう………俺は焦り、そしてハッとする。
アイツ、擦れと言われたら徹底的に擦るんじゃないだろうか。
再び俺は焦り、浴室に走っていった。
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