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なまえをつけてよんでみよう。4/4

「おいミオっっ………!」  案の定、ミオは言われた通り右手首を浴室にあったナイロンタオルで強く擦っていた。 「もういい、擦るなっ!」 「遼ちゃん………どうしたの?」  ナイロンタオルを取り上げられ、ミオはだんだん泣きそうな顔になる。  さっきから怒鳴られっぱなしなので何か悪いことをしたのだと思っているのかもしれない。 「遼ちゃん………」 「いや、その………ごめん」  俺は思わず目を伏せる。  もう一度確認したけど、やっぱり取れてないのだ。 「ごめんって? 遼ちゃんは謝ること何もしてないよ?」 「オマエのソコ、もう取れないかもしれない………ごめん」 「これ? この茶色の模様みたいなの?」 「うん………ホントにごめん、初日っからこんな………ごめん」 「なんで? こんなの気にならないよ? 遼ちゃんが謝ることなんて何もないよ?」  ただ謝るばかりの俺に、ミオはやはり首をかしげることしかできず困惑している。 「でも………」  新品だから、とか、いずれ人の手に渡るかもしれないのに、とかじゃなくて。  いくらセクサロイドだからって、いきなりこんな目に遭わせちまうなんて。 「………遼ちゃん知ってる? 僕の身体っていっぱいあるんだよ?」 「は?」  やがて、ミオはうつむいている俺の目を見るために少し腰を落として見上げてくる。 「いっぱいあるから? ………交換すれば済むって言いたいのか?」 「ううん、いっぱいあるの。いろんな人が使うの。  でも同じ身体だけをいっぱい並べたらね、きっとみんなどれが自分の恋人かわかんなくなっちゃうんだよ」 「………………」  口からは俺への慰めの言葉が出てるけど、落ち込んでる俺を見るのがつらいのか、こっちが慰めてあげなきゃいけないくらいミオはずっと泣きそうな表情をしている。 「でも僕は違うよ。これがあったら遼ちゃんはすぐ僕を見つけてくれる。  誰よりも早く遼ちゃんは僕を見つけてくれる」 「………オマエ………」 「僕うれしい、消えない目印ついて、うれしい。僕、これ好き。  だから、遼ちゃんは謝ることは何もしてないよ?」  ぜんぶ、計算。  きっと計算なのに………頭ではそう思う。  でも、それだけでは済ませたくない何かが心に込み上げてくる。 「………わかったよ、オマエがいいっつんならそれでいいから」 「こういう時は名前で呼んで? 遼ちゃん」  まだ泣きそうな目でおねだりをするミオに、恥ずかしいけど俺は観念して、少し笑い、ミオの髪を撫でてみる。 「………わかったよ、ミオ」 「ありがとう! うれしい! 遼ちゃん大好き!」 「うわっ、ちょっ………あ゙ぁっ! ……………」 「遼ちゃん? どうしたの? ねぇ遼ちゃん?」  下から覗き込んだ姿勢のままロケット発射のような勢いでミオに抱きつかれ、俺は背後のタイルに頭をしこたま打ち付け、その場で撃沈してしまっていた。

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