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おあずけぷろぐらむ 4/6

『フェネックです。昼間はメールどーも。詳しい説明もありがとう。  まずロイド初心者が陥りやすい勘違いなんだけど、取説に載っていないプログラム、いわゆる『裏技』ってのは『すべてのロイドが元々隠し持っているもの』じゃなくて『持ち主との日常でのやりとりで形成されるもの』だってこと。  だから『おあずけプログラム』って名前も、当然RYOくんしか知らない言葉で一言で誰かにこうすればいい、と教えるだけで他のロイドたちも同じように発動するものじゃないってことを念頭に置いて、以下説明。』  ……そうか、ミオ自身がおあずけプログラムを『発動させた』のではなくミオの中でプログラムが『形成された』ってことだったのか。  そういえば「プログラムが出来た」ってあの時言ってたっけ。だとすればその後の事務的な口調なども少し納得できる。  フェネックさんの説明によるとこうだ。  まず、ロイドはあくまでも指示を受ける側で与える側じゃないから、持ち主の生活や性格に合わせて少しずつ人格が形成されていくものだということ。  より深く親密になるために。より持ち主だけの恋人になっていくために。  特に愛玩系であるセクサロイドであれば、そのセンサーは他のタイプのロイドより敏感である。  つまり、俺と数日過ごしているうちにミオは「抱いてくれない」と認識、その理由も「嫌がっているから」とさらに認識、それが何度か重なり少しずつそのプログラムが作られていったということ。  長年共に暮らしてマンネリ化した持ち主なんかにも似たような現象が起こるらしいけど、仕組みは同じものではないかとフェネックさんは指摘する。  さっきミオが「何をすればいい?」って聞いたのだって当然と言えば当然だったのだ。  そのために生まれてきたのに「しなくていい事」にされてるのだから。  そして一度それが生まれて発動し、解除方法を知っているならそれを使うべきだと。  動作や時間などをきちんと目を見て話して教えたのは他ならぬ俺自身なのだから。  二人の間に生まれ、二人で決めた「約束」なのだから。  確かにそれは………人間同士でも言えることで、人付き合いの基本ともいえる。  生きていくうちに、人は曖昧な言葉や社交辞令を覚えるかもしれないけれど、それを繰り返せば信頼に関わることだってある。疑われてもしょうがない。  そしてその相手が、自分にとって大切な存在であればなおさら深刻な問題だ。  相手は機械だからって軽んじて。 俺は元々ゲイじゃないからなんて言い訳をして。  アイツは、ミオは、人が忘れてしまいがちな大切なものを教えてくれているというのに。  フェネックさんは、最後にこう記してくれた。 『最後にひとつ。このプログラムの存在をネットなんかで誰も公言しないのは中にはノンケのリアクション見たさで面白半分の奴もいるかもしれない。  でも、大半は、俺もそうだけど、よき理解者になって欲しいと思っているから。  性交をしなくていいプログラムをノンケに教えるという事は、俺らゲイの存在をゲイ自らで否定することになるから。  誰かを愛することに、性別など関係ないことを知って欲しいから。  初めてRYOくんの文章を見た時に俺も、きっと他の人もいずれ理解してくれる人かもしれないと感じたからだと思う。  それでも人の心はさまざまだから仲間になって欲しいまでは言わないけれど、俺らが思うのはただ一つ、否定だけはしないで欲しいということ。  戸惑うことはいっぱいあるけれど、それは俺達も通った道だから。  わからないことはいろいろ聞いて欲しい。全力で協力する。  そんなわけで長々とすまん、また何かあったら連絡待ってるよ。  追伸。ついでだからうちの「恋人」とのツーショ写真もつけとくよ(左が俺)。  こないだ可愛らしいうさぎさんの写真見せてもらったから、そのお礼と自慢。  まぁ、うちのは動物にたとえるとゴリラって感じだけど(笑)。』  ………最後に載せられていた写真は、すでに涙で見えなくなっていた。

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