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おあずけぷろぐらむ 5/6

 俺はミオだけじゃなく、フェネックさんも傷つけてしまったかもしれない。  とりあえず返信でちゃんと侘びを書いておかなきゃ、  トントン、 「遼ちゃん」  そう思い書き出そうとしたところでドアがノックされミオの声が聞こえた。  え、なんで? さっき俺「寝ろ」って言ったはずなの………あ、そうだった。  「寝ろ」をやめて「おやすみ」に朝変えたのをすっかり忘れていた。  てことはさっきから起きた状態のままずっとあっちにいたってことで。 「わ、悪いミオ………起こしっぱなしだったな」  慌てて涙を拭いてドアを開ける。 「ううんいいの。あのね、向こうでずっと一人で思ってたの」 「うん、なにを?」  とりあえず寝室に招き入れてベッドに座らせる。 「………遼ちゃんは、やっぱり僕に怒ってるの?」 「へ?」 「僕が何も出来ないから、それで怒ってるの?」 「…………………」  口調はやはり今までと違いやや淡々としているが、顔はずっと困っている。 「い、いや………だからオマエに怒ってるわけじゃないよ」 「じゃ、僕はここにいてもいいの?」 「もちろん、いていいに決まってるだろ?」 「でも僕、何も出来ないよ? 何もないよ?」  ミオの表情はどんどんと困惑に加え、苦悩の色が濃くなっていく。 「僕は遼ちゃんといて何をすればいいの?」 「…………………」 「あのね、僕、遼ちゃんが困った顔見るのはなんかかなしいの………でも何も出来ないの」 「…………………」 「ねぇ遼ちゃん、………僕はなんでここにいるの?」 「そ…んなこと言うなよミオっ、」  その顔に後悔とか申し訳なさとか哀しさとかでごっちゃになる。  俺は思わず、ミオを抱きしめた。 「遼ちゃん………どうしたの?」  抱きしめられたミオは、やっぱりわからないといった風に俺から離れ、顔を覗き込む。 「遼ちゃん?」 「ごめん、ミオ」 「なんで? なんで遼ちゃんが謝るの? 遼ちゃんが謝ることなん」 「抱いてやるから!」 「……………………」 「だから、元のオマエに戻ってくれよ、………ミオ」 「…………遼ちゃん!」  俺は自然にそう叫んでいて、一瞬驚いた顔からミオはみるみると喜びの顔に変わり、最後は泣き顔になって俺に抱きついてきた。 「遼ちゃん………遼ちゃんっ………」 「い、いや、抱いてやるつってもだな、今すぐって意味じゃなくてっっ」  やっぱり俺は恥ずかしくなって、話をはぐらかそうと必死になってしまう。 「と、とりあえずキーワードとか変えたりして、で、あれだ、それから、」 「遼ちゃん、遼ちゃん………」 「これからちょっとメールの返信をしなくちゃだし、それで、」 「遼ちゃん、遼ちゃん遼ちゃん………」 「っ、き、聞いてんのかよオマエッッ!!」  胸元に顔をスリスリしながら何度も名前を呼ぶミオに、やっぱり真っ赤になってしまう。 「ごめん………怒んないで?」 「だっ、だから怒ってるんじゃねーっつの」 「あのね、遼ちゃん、えっちはいいの。僕、いつでもいいの」 「…………………」 「今ね、すっごく嬉しいの。だからね、それだけで今はいいの」 「そ、そっか………」  俺はホッとする。  が、それは性急にコトを成さなくて済むから、という意味じゃなくて。  単純に、こいつの幸せそうな笑顔がまた見られたのが嬉しくて。 「ミオ、」 「なに遼ちゃん?」 「きょ、今日はここで寝るか?」 「ここでって? 僕がこの遼ちゃんのベッドに寝ていいの?」 「ま、まぁ………たまにはそれくらい………」 「ありがとう遼ちゃん! いいの? 僕、ここ入っていいの?」 「お、おまっ、そこパソコンあんだから暴れんじゃねぇよ」  そう言いながらもすでにミオはベッドにもぐりこみブランケットにくるまり、嬉しそうにコロコロと転がり始める。  ホントにパソコンが落ちそうで慌てて手を伸ばせば、ちょうどミオを押し倒し組み敷いたような形になっちゃって。 「………遼ちゃん?」  俺を見上げるコイツの姿はだらしなく無防備で。  ───そのすべてが、とても愛おしくて。  そのまま自然と、その口唇に口付けていた。

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