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北の街
賑やかな街の屋台は、これぞと言う店ばかりだった。
肉の串焼き、甘い果物の蜂蜜漬け、硬いパンにチーズや加工肉と野菜を挟んだもの、僕の世界の調理法が殆どあった。
蒸したお芋や、揚げた肉、味も懐かしいものから、新しいものまで沢山の物を味わった。
「咲季、こう言うの好きだったんだね」
「うん、こう言うのが好きだよ
コースみたいなお皿が沢山あるのより、大きいお皿から皆んなで食べる方が好き。
楽しいもん
そりゃ、たまになら、コースとかも良いけど、お作法に必死になるから味があんまり分かんないし、食べ終わった後に、違うもの食べたくなっちゃう。」
「そう言えば、あんまり美味しそうに食べてなかったよね」
「うん、向こうの世界で僕が生まれた国は、箸って道具を使うように小さい時から訓練するの。
だから、フォークとかスプーン単体ならなんとかだけど、ナイフを使ってってなると食べにくい食材は難しくて食べるのを諦めちゃうんだ。
他の国はそれが当たり前にナイフとフォークを使うところの方が多いかな。
箸は、限られた国でしか使ってない道具だったよ
でも、逆に、他の国の人達は箸を使うのが難しくて、持ち方とか頑張ってる人をよく見たなぁ」
「咲季は箸って道具があれば、美味しく食べられるの?」
「そりゃ、種類にもよるよ?
あ、活気的な道具があったのを思い出した!
先割れスプーンてのがあってね、大抵のことはこれ一つで出来ちゃうの。
でも、これが子供たちに浸透しすぎて、箸が持てない子が問題視されて、今は少なくなったみたいだけど。
僕はちょっとだけ使ったな」
「なら、私の国ではお箸と先割れスプーンで食べるようにすればいい!」
「うん、それだといいな」
後で絵を描くね、と言って歩き出した。
大きい街に小さな半獣の子達が走り回る光景は、平和な良い街に見えた。
「小さい子は半獣なんだね。」
「そうだよ、生まれてくる時はその種族の獣化した状態で、育ってくると自分で人化出来る様になるんだ。」
「ハーフとかはどうなるの?」
「例えば同じネコ科なら単純にミックスだけど、違う種族だと、どちらかに分科されてるね。」
それは獣人だからだと思う。
僕は元々、従魔の魔獣だもん、どうなるんだろ?
「咲季が考えてる事、すぐわかる様になったよ。
魔獣なら?でしょ?」
「うん」
「まあ、そこは神様がうまくやるんじゃないかな?」
「神頼みとか、それはどうなのかな?」
「きっとね、神様も咲季の赤ちゃんを見たいと思ってくれてるからさ」
トルクはこうやって楽観視した様な言い方するけど、実際はかなり深く考えてるのを知ってる。
全ては僕を不安にさせないため。
「まあ、妊娠しない事には、考えようもないけどね」
「お!前向きな意見!
今夜は子作りだね!頑張るよー!」
あ、違うスイッチ入った気がする。
それから雑貨屋さんや、服屋に装飾店、色んな店を覗き見して、最後に宝石屋に入った。
「うわぁ、すごい綺麗
あ、これ、トルクの色だね」
白い真珠の様な色に、青みがかった光を出す石があった。
「咲季はこの色、好き?」
「トルクの色だから好き」
一瞬だけ悲しそうな目をしたけど、すぐに笑って僕を抱きしめてくれた。
「咲季のおかげで、好きになれそうだ」
「え?」
「明日、入国する時は覚悟してね」
「なんかあるの?」
「まあね。」
ふふっと笑って誤魔化された。
宿に戻ると、部屋には沢山の荷物が届いていた。
「どう言う事?これ」
「先に、宿から国の家族に先触れを出してもらったんだよね
伴侶連れて帰りますって。
多分、その準備に必要な道具とか服だよ。」
「これ全部?
トルクのもあるだろうけど、多すぎない?部屋の半分以上が荷物なんて」
ほぼ平置き状態だから場所ばかり取ってるけど、重ねても邪魔な事この上ない。
中身を探ってみると、白いドレスシャツや、パンツ、レースの長いアレ。
これは、所謂、アレだアレ!
「まさかと思うけど、これ着て明日入国するの?」
「家族から贈られたものを身に付けて入国することで、家族と認められるのが、私の国の風習なんだ。
家族から愛されてる証としてね。」
「なら、着る。
絶対着るよ!」
「咲季は素敵だなぁ。
大好きだよ。」
「僕だって、トルクが好きだよ」
コンコンコンコン
ドアがノックされて入ってきたのは、ロマンスグレーなおじさまだった。
もう、どこからどう見ても、執事って感じの人で、正解は、やっぱり執事だった。
ただし、乳母さんでもあったけど!!
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