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第2話

「もう少し、頑張ろうか」  耳元へ低く囁きかけると驚いたように体が跳ねた。それもその筈、彼は目隠しをされており、手で触れなければ伊織がどこに居るのかさえも分からない。  小さな尖りを掠めるように胸の辺りへと指を滑らせ、ぐぐもった声を漏らす口元へもう片方の手を伸ばす。口枷へと触れ、それから薄い唇を指でなぞっていくと、必死に体を引こうとしている姿に背筋がゾワリとした。 「ほら、自分から言いだしたことだろう? もっと頑張らないと」  胸の尖りを人差し指でトントンとリズミカルに叩き、怯える彼の反応を見て伊織は口角を引き上げる。そう、今の状況は伊織が無理矢理航太に強いたものではなく、航太自らが伊織を呼び出し指示をだしたものだった。 「ぐ……うぅ、ふぉっふぉろふ!」 「なに? なんて言ってるかわからない」 彼が「殺す」と言っているのは、そのニュアンスから伝わったけれど、伊織はあえてそれを無視して拳で軽く腹を突く。 普段の彼なら痛くも痒くもない衝撃の筈なのに、視界を奪われ過敏になっているのだろう……大げさなほどにビクついたから、思わずクスリと伊織は笑った。 「ぐうっ、うっ!」 「こんなことでビビってたら、女なんて一生抱けないよ」  耳朶を軽く噛んだ伊織は、航太の頬を掌で撫でる。大きく首を横へと振った彼の細い顎を指先で捉え、「諦めろ」と抑揚を消した低い声音で命じると、まさか伊織がこんな暴挙にでるとは思わなかったのだろう。航太は一瞬固まったあと、さらに激しく暴れだした。  目前に座る山辺航太は、伊織の通う私立高校の同級生で、さらに言えば問題児だ。  身長はあまり高くはない。多く見積もって百六十五といったところか? 金色に近い茶髪を立たせ、耳にはピアスを数個つけており、制服を着崩しているだらしない姿はダサいヤンキーそのものだ。 入学式からそんな様子だが、誰も文句を言う者はいない。なぜなら、私立であるこの高校は、成績の良い特進科の生徒ばかりを優遇し、彼らのような底辺からは金を吸い上げ、単位を満たせば高校卒業の資格を与えてやればいいという方針だから。  伊織は特進科、そして航太は普通科だ。さらに言えば、伊織は生徒会副会長で、家柄も良く人格者。身長は百八十を越えており、整った甘いルックスから、同じ高校はもちろんのこと、他校の女子からも『王子様』となどと囁かれている。

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