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第3話
一方航太は良く問題を起こしており、気性が荒く喧嘩っ早いことで校内でも有名だ。それはまったく接点のない伊織の耳にも届くほどに。
特進科と普通科とでは校舎も別に建てられており、行事の時くらいしか接点をもつこともない。それなのに、今、二人が一緒にいるのはなぜなのか?
ことの始まりは数ヶ月前に遡る。
学校からの帰り道、喧嘩をしている航太の姿をたまたま見かけてしまったところから、伊織は航太に興味を抱いた。
航太一人に相手は三人。
小柄な航太に勝ち目は無いと思って見ていた伊織だが、だからといって助けようとは思わなかった。
無用なリスクは避けるに限る。
それでも無視して帰るという選択肢は浮かばなかった。立場上、同じ学校の生徒を見捨てるような場面を、誰かに見られていたらまずい。
そんなわけで、スマホを取り出し警察へと通報しようとした伊織だが、その前に、少し証拠を残しておこうと録画ボタンを押した際、事態は急に動きだした。
素早い動きで航太が一人を殴り飛ばし、掴みかかろうと動いた二人の脛と股間へと次々に蹴りを入れたのだ。
直後、こちらの視線に気付いたのか? 振り返った航太の顔は、興奮からか薄く紅潮していたのだが、視線が絡んだその瞬間……まずいものでも食べたかのようにその表情は一変した。
それもその筈、彼はあと一度問題を起こしたら、退学だと言われている。そして、見られてはいけない人物に、現場を目撃されてしまった。
『てめえ、なに見てんだよっ』
すぐ近くまでやってきて、こちらを見上げて吠える姿に、想像以上に馬鹿な奴だという印象を伊織は抱く。もう少し言い様があるだろうにと考えながら、虚勢を張る彼の姿にある種の感情を芽生えさせた。
『口止めに俺も殴る?』
『……ッ』
悔しそうに歪む唇は綺麗な薄桃色をしており、やや切れ長の二重瞼は妙な色気を帯びている。女に生まれていたならば、さぞやちやほやされていたなどと分析し、なんの案も浮かばないのか? こちらを睨む航太に向けて優しい笑みを浮かべながら、『まあ、こんなところで立ち話もなんだから、夕飯つきあってくれよ。奢るから』と切り出したのが始まりで――。
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