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第5話
『山辺は、どうして喧嘩ばかりするんだ?』
喧嘩を見られてしまったあと、一緒に入ったファミレスで、単刀直入に聞かれた時には何も答えられなかった。喧嘩を止めろと言われても、どうしてするのか問われたことは無かったから、航太は内心驚いていたがそれを表には現さない。
『それにしても、強いんだな。ボクシングかなにかやってるの?』
『……やってない。それよりおまえ、俺なんかと飯食ってるところ、誰かに見られたら、やばいんじゃねーの?』
『俺の心配してくれるんだ。山辺っていい奴だな。じゃあ、自分でそんなに強くなったんだ』
柔和な笑みを向けられて、心臓が大きな音を立てた。罵倒されることはあっても、いい奴だなんて言われたことはこれまでただの一度もないから、返す言葉に詰まってしまう。
『父親になった人が、空手やってて……教えてもらってたから』
『そうなんだ。でも、人を傷つけたらダメなんじゃないかな』
『……分かってる』
いつもの航太なら掴みかかって『関係ねえ!』と叫ぶところだが、そうするには相手が悪いということくらい理解できた。いくら馬鹿でも高校くらいは卒業しろと言われているし、退学になんてなってしまったら母親の立場が悪くなるだろう。
『じゃあさ、黙っててあげる代わりに、俺と友達になってよ。そうだな……昼は食堂で一緒に食べて、帰りは校門で待ち合わて帰ろうか』
『な、なんでそんなことっ!』
『じゃあ言ってもいい?』
目前に、スマートフォンの画面を向けられ、そこに映った自分の姿に航太は言葉を失った。
『てめぇっ!』
『しーっ、他のお客さんの迷惑』
彼の示したディスプレイには、喧嘩をしている自分の動画が鮮明に映し出されている。奪い取ろうと手を伸ばしたが、すんでのところでかわされた挙げ句、『もうパソコンに転送したから、これを取っても無駄だ』と言われ、航太は大きなため息をついた。
『わかった。いつまでだ』
『とりあえずは卒業までかな。航太が問題を起こさずにいれば、無事に卒業できるはずだから、そうしたら消してあげる』
『なげーな。一年以上あるじゃねーか』
舌打ちをしながら文句を言うが、伊織に動じる様子はない。彼みたいな優等生が自分と友達になりたい理由が全く思い浮かばなかったが、このとき航太はどうせすぐに飽きるだろうと思っていた。
それなのに――。
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