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第6話

「ふっ……ぐぅっ!」 「萎えてる。かわいい」  上半身でもありえないのに、どうしてズボンのファスナーまで下ろす必要があるのだろう?  ボクサーパンツを下げられたあと、下肢へと触れた指の感触の気持ち悪さに、航太はとうとう震えながら目隠しの下で涙をこぼした。 「泣いてる?」 「ん……うぅ」  目隠しをそっと外されて、徐々に視界が戻ってくる。そして、涙でできた幕の向こうに端正な顔が見えたとき、急に心臓が音を早めて背筋をゾワリと悪寒が走った。 「女の子と付き合いたいんだよね。だったら、これくらいで泣いちゃダメだ」  淡々とした口調で言いながら航太のペニスを掴んだ伊織は、力なく萎えた小さなそれを緩く上下に扱きはじめる。 「ふぁ、ふぁへお!」 「義理のお父さんから性的暴行を受けてたんだっけ? それで、人に触れられるのが極端にダメになった」 「あ、ら……ふぇ」 「なんで知ってるかって? そんなの少し調べれば分かる」 「んっ……ぐぅ」  テーブル上に置かれたハサミを手にした伊織が微笑んだ時、尋常ではない恐怖を感じた航太の体は竦みあがった。 「邪魔な服を切るだけだから、怖がらなくていいよ。俺は航太の親友だろう?」  こんな伊織を航太は知らない。  彼は常に優しくて、そのままの航太を認めてくれた。最初こそ、脅迫まがいの友達ごっこと思っていたが、長い時間を共に過ごす内、いつの間にか、かけがえの無い存在になっていったのは……航太が話すことの全てを彼が肯定してくれたからだ。 「触られるのがダメなんて言ったら馬鹿にされる。だから友達は作れない。でも一人は寂しい……それで、たまったストレスを喧嘩で発散してたって感じ?」 「……」  図星を突かれた航太の顔はみるみるうちに赤くなる。これは、恐怖からくる感情ではなく、怒りからくる感情だ。 「相手が航太より強かったら? もし……そんなスリルを楽しんでたなら、航太はちょっとした変態だね」  布を断ち切るハサミの音がやけにクリアに聞こえてくる。足元に屈む伊織の姿は瞳に映っているけれど、どこか別の世界で起きている出来事のようだった。

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