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遺伝子_7
朝食を取るためにリビングへ顔を出すと、母親が驚いた声を上げる。
「どうしたの、コンタクトなんて。珍しいこともあるものね」
「別に。気分だっただけ」
「へえ。夏月も夏月で外泊なんて珍しいし、二人揃ってどういう心境の変化?」
「さあ。兄さんのことは分からないけど年頃だし、彼女の家でも行ってるんじゃない」
「そう?あの子、遊びは派手だけど必ず家には帰ってくるのにねぇ」
言うとおり、兄さんが外泊をしてきた記憶は殆どない。殆どと言うより、全くない。
夜は遅くても必ず家には帰ってくる。
だから生まれてから顔を会わせなかった日は、修学旅行ぐらいのもんだ。
「あら、こんな時間。葉月、戸締まり宜しくね。父さんも母さんも遅くなるから」
「はいはい、いってらっしゃい」
慌ててエプロンを外した母親の背を見送り、用意された朝食に手をつける。
いつもは隣に座る兄さん。
空っぽの席。いつ振りかに食べる一人ぼっちの朝食。
ああ、俺…………手放しちゃったんだな。
こういう当たり前の日常とか、信用とか、信頼とか、弟って言う立場とか。
こんな汚い感情は弟って言う綺麗な箱に閉じ込めたまま、誰にも気付かれないように、誰にも触れられないように………蓋をしておかなきゃいけなかったのに。
「…………好き」
消えて溶けたりなんかしない。
「…………好きだ」
何度壊しても胸を燻るこの感情は、
「…………好きなんだ」
生まれてからずっと、ずっと……。
「ごめんな、夏月……」
こびりついて離れない。
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